連載コラム「クリエイターの想いを尋ねて」   

第22回「生活道具としての南部鉄器の魅力を伝えるためにーー森 博(designshop)」

17.03.03

東京・南麻布にあるdesignshopでは、「釜定南部鉄器ケトルとコーヒー展」と題して岩手の「釜定」三代目、宮 伸穂が新たにデザインした南部鉄器の展示を3月20日まで行っている。

▲ 宮がデザインしたケトル。現代の生活に馴染む、シンプルで洗練されたフォルムが美しい。

インタビュー・文/浦川愛亜

写真協力/保坂花蓮(m+h unit Inc.)

▲ designshopオーナーの森 博。壁に飾られているのは、伊藤千織によるペーパーリース。


南部鉄器について改めて考えた

「南部鉄器の魅力を伝えていきたい」という、designshop代表の森 博の思いを私が聞いたのは、2007年のことだった。

森は南部鉄器の産地の1つとして知られる、岩手県盛岡市の出身だ。岩手では鉄瓶が日常の生活道具として使われているが、装飾が多く形状が古めかしく思えて、「地元にいたときには、あまりその魅力がわからなかった」と言う。

ヨーロッパの家具を扱う東京の会社を経て、90年代後半に独立を考えていた頃、今まで見たことのないようなシンプルでモダンな鉄瓶を百貨店で見つけた。ところが、地元に帰ってよく見ると、店頭に並んだ雑多なものの中に同じ鉄瓶があったという。森にとって、店舗での製品の「見せ方」も大事だと痛感したのと同時に、南部鉄器を改めて見つめ直すきっかけになった出来事でもあった。

▲ 南麻布にある、築60年以上の歴史ある「白ビル」の1階がdesignshop。企画展示やオリジナル商品の開発も行う。


現代感覚を取り入れた道具をつくる「釜定」

森がdesignshopを設立したのは、1998年。当初は、チャールズ&レイ・イームズやジャスパー・モリソンなどの家具を販売していたが、次第に日本の手仕事によるものやデザイン性の高いプロダクトなど、世代を超えて永く使い続けられる生活道具を扱うようになった。

南部鉄器については、自ら工房を訪ね歩いて製品の取引交渉を重ね、地道に販路を開拓した。現在では、釜定をはじめ、岩鋳、小笠原鋳造所のほか、柳 宗理や小泉 誠、ヨーガン・レールといったデザイナーの製品も扱っている。

盛岡市にある釜定は、明治時代から100年以上続く南部鉄器の老舗工房だ。三代目を継いだ宮 伸穂は、伝統技術を継承しながらも、現代感覚を取り入れた生活道具としての鉄器を数多く生み出している。鉄瓶、木の柄つき鍋、すき焼き鍋、フライパン、オーナメント、鍋敷きなどだ。

▲ designshopで扱っている、宮がデザインしたフライパンや鍋敷き、狛犬、今回の展示に合わせて新たにつくったコーヒー用メジャースプーンなど。


若干16歳で三代目を継ぐ

宮の父親である二代目(昌太郎)は、宮が16歳のときに他界。母親や残された職人たちを見て、自分がやらなければと三代目を継ぐ決心をしたという。実は今回、展示されている製品は、その家業を継いだときから構想していたことだったそうだ。

今から400年ほど前の安土桃山時代につくられたと言われる鉄瓶は、現在までその形や様式が大きく変わってはいない。しかし、宮は疑問を抱いていた。「人の嗜好が時代とともに変化していくなかで、このままつくり続けていいのだろうか。今後も世の中の人に受け入れられるものになっていくだろうか」と。

そして、「伝統技術を用いて、現代の生活様式に合う鉄瓶をつくりたい、つくらなければならない」という想いのもと、日々、デザインを考え試作を重ねた。

▲ 右が30年前に試作したケトル。蓋は真鍮製で、つまみと取っ手は木製だ。展示台には、本体や取っ手の試作が並ぶ。


構想から数十年後に完成したケトルとポット

2008年にdesignshopで森が初めて南部鉄瓶の展覧会を開いた際に、宮はポットの試作を出品。その後、試行錯誤を重ねて、今回の展示となった。

ケトルとポットの2種類で、デザインはそれぞれ本体が優しい曲線を描いたものと直線的なものの2タイプがある。試作と同じように取っ手と蓋のつまみを木製にして持ちやすくし、お湯を注ぐときに蓋が落ちにくい設計にするなど、日常で使いやすい工夫が随所に盛り込まれている。また、IHにも対応するように、底面に技巧を凝らした。

▲ 今回初お披露目となった、ケトル(左:ラウンド型)とポット(右:ライン型)(写真は試作品のため、取っ手、つまみのデザインが変更される可能性があります)。


思考の足跡を見ることができる

製作において難しかったのは、注ぎ口と、木で鉄を挟み込んだ取っ手の形状だったという。自身のことを「パッとひらめいて意匠を考えられるタイプではない」と言い、毎回、スケッチは100枚から200枚、模型は20から30個ほどつくって検討するそうだ。

今回の展示では、そんな宮のスケッチをはじめ、
石膏やアルミ製の模型なども並び、思考の足跡を見ることができる。会場のモニターには、毎日、送られてくる釜定の工房の様子も映し出される。

▲ 展示期間中、宮の描いた図面(複写)も販売する。


自然の神秘を造形に取り入れたい

今年、宮は64歳を迎える。「人生の最終コーナーに差しかかったので、自分がやれること、やりたいと思っていることに取り組んでいきたいと考えています」と語る。それは何かと訊ねると、「たくさんありまして」と笑って答える。

今、最も興味を惹かれるのは、自然界の造形物や自然の摂理、自然の真理だそうだ。「花や草木、鉱石、宇宙の天体など。その形に黄金比の法則が見られるなど、自然界のものは神秘に満ちています。それを模倣するのではなく、そのなかから抽出して再構成し、心の奥底に響くようなものをつくることができたらと考えています。それは造形物に携わる人であれば、誰もが思うことではないでしょうか」。

南部鉄器については、「素材の性質、技術、用途、美しさなど、新しい発見や面白さが尽きない」と言い、「人の好みは時代とともに変化していくものですが、基本を踏まえたうえで常に新しい提案を心がけていきたい」と語った。

▲ 宮がデザインした茶釜の新作も展示されている。


最大の魅力は、お湯がまろやかに美味しくなること

南部鉄器は製作工程が80ほどあり、技を習得して一人前になるには、10年ほどかかるという。現在、釜定の四代目を継承するべく、長男の昌太朗が修行をしているところで、今年で3年目に入るそうだ。

designshopの森は、「今後も南部鉄器の魅力を伝えていきたい」と言う。「重い、持ち手が熱くなる、注ぐときに蓋が滑り落ちやすい、錆びやすい、製造工程が多い……。デメリットがたくさんあるのに、これまで400年以上もつくり続けられ、今も生活のなかで使われている。それは何より鉄瓶でお湯を沸かすと味がまろやかになって美味しくなるからだと思うのです。宮さんのように、新しい生活道具としての鉄器をつくる人たちをこれからも応援していきたいと思います」。

宮のケトルとポットはシリアルナンバー入りで、展示期間中だけの限定予約販売。
また、ケトルで沸かしたお湯で淹れたコーヒーの試飲サービスも行っている。その驚くような味の違い、美味しさやまろやかさをぜひ会場で体感してみてください。


「釜定南部鉄器ケトルとコーヒー展」

会期:2017年2月20日(月)〜3月20日(月・祝)
   11:00〜19:00(※会期中は、土日祝日も営業)

会場:designshop 東京都港区南麻布2-1-17 白ビル1F
   tel. 03-5791-9790
   http://www.mh-unit.com/kamasada_kettle/

※南部鉄器のケトルとポットは、展覧会期間中のみの限定予約販売。

※最終日の3月20日(月・祝)には、釜定代表の宮 伸穂が終日在廊。また、「Omotesando KoffeeとKoffee Mameya」のバリスタの三木隆真を迎え、南部鉄器ケトルを使用してロバーツコーヒーを試飲できるほか、17:00から「and recipe」(http://andrecipe.tokyo)の料理研究家、山田英季と釜定がコラボレーションしたお菓子「釜どら」をいただける(※お菓子は数量に限りがありますのでご了承ください)。



宮 伸穂/釜定代表。金沢美術工芸大学、東京芸術大学大学院へと進み、作品制作と平行して素材についての研究も深める。和銑による釜の制作や、A.D.I(超強靭鋳物製造)の特許取得など、伝統技術を継承しつつも現代感覚を取り入れ、生活の道具としての鉄器づくりを目指す。ヴィクトリア&アルバート博物館(英国)やメトロポリタン美術館(米国)、ミラノ・サローネへの出品、ストックホルムでの個展など海外での活動も多く、数々の賞を受賞。また、国内でも国宝中尊寺金色堂の修復および制作、岩手県卓越技術者表彰、伝統工芸士認定と活躍。機能を見極め、極限にまでそぎ落としたかたちに円熟の技が光る。


森 博/designshopオーナー。岩手県盛岡市生まれ、中央大学経済学部へと進み、ヨーロッパのヴィトラなどを扱う輸入家具メーカーのインターオフィスを経て、1998年に日本をはじめ世界のインテリアトップブランドを扱うdesignshopをオープン。釜定などシンプルでクオリティが高く、末永く耐久性のある商品をセレクト。最近では自店でのノウハウを生かし、日本古来の稲藁を使ったオリジナルブランドwara design laboratoryなどの立ち上げ、国内メーカーの商品プロデュースなど、日本のものづくりを中心に世界へ展開。designshopでプロデュースした商品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)でも販売されている。http://www.designshop-jp.com



浦川愛亜/エディター&ライター。岡山県生まれ。日本大学藝術学部文芸学科ジャーナリズム専攻卒。『ECIFFO』『AXIS』編集部を経て、渡伊。帰国後、『Martha Stewart』日本版編集部を経て、2003年よりフリーに。デザイン分野を中心に雑誌、書籍、ウェブメディアで活動。書籍編集に『長大作 84歳現役デザイナー』(長 大作 著、ラトルズ刊)、『あそぶ、つくる、くらす デザイナーを辞めて彫刻家になった』(五十嵐威暢 著、ラトルズ刊)などがある。

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