シンガポールデザインレポート    建築   

「21世紀のサスティナブルな都市のための戦略」レポート(3/5)

17.03.03

「ザ シンガポール ダイアローグ:21世紀のサスティナブルな都市のための戦略」の講演会レポート第3弾は、建築家の末光弘和氏(建築設計事務所SUEP.代表)のプレゼンテーションです。


シンガポールでの設計経験を経て

20代に6年ほど建築家の伊東豊雄さんの事務所に在籍していて、そのときにシンガポールのプロジェクトに関わりました。シンガポールでは国をあげてアーバングリーンストラテジーを展開しており、私が初めてシンガポールに行ったとき、経済とエコロジーが両立していることにひじょうに驚いたものです。その後、帰国して独立し、現在SUEP.(スープ)という建築設計事務所を運営しています。

まず、2003年から2006年にかけてシンガポールで関わったプロジェクトを紹介します。「ビボシティ(Vivo City)」は2006年に完成したショッピングモールです。巨大な水盤のある屋上庭園を提案したのですが、最初はクライアントに「シンガポール人は冷房の効いたインドアが好きだから屋外なんてムリ」と受け入れてもらえませんでした。しかし、最終的にはとても気に入っていただき、お客さんも水や風、緑を楽しんでいるような風景が実現できました。


もう1つは、2010年に完成したコンドミニアム「ベルビューレジデンス(Belle Vue Residence)」です。私は基本設計まで関わり、低層という高さ規制に対してなるべく表面積を最大化するようなコンセプトを提案しました。デベロッパーの「より多くの床がほしい」、建築家の「自然とのインターフェースがたくさんほしい」という希望が合致し、構造が枝分かれするプランを実現したのです。


その後、日本で独立しました。ちょうどその頃、風や熱に関するコンピュータ・シミュレーション技術が進んできて、それらの技術やシンガポールでの経験を生かして環境建築のデザインに取り組んできました。私の事務所はデザインチームとリサーチチームに分かれ、その間を行ったり来たりしながら設計しています。

どのようなリサーチかと言うと、例えば、都市の一部をサンプリングしてそのマイクロクライメイト(局所気候)を調べたり、建築の形態と流体の関係について調べたり。また、コンピュータ・シミュレーションによって、換気効率が良くなる形などをリサーチしながらデザインしています。

▲ 渋谷をサンプリングして狭い範囲の気象を解析した図。


プロジェクト「地中の棲処(すみか)」
風の解析から建築の形を決定

これは「地中の棲処(すみか)」と呼ぶ、福岡市中心部の小高い丘に建つ住宅のプロジェクトです。われわれは常に都市レベルで風を解析し、そこから敷地近辺のマイクロクライメイトについてリサーチしたうえで、ようやく建物の設計に入ります。ここでは「南の斜面を駆け上がる夏の風」をテーマに、それを取り入れた建物にしたいと考えました。ベンチレーション(換気)がうまくいくように建物の配置、風の経路などをシミュレーションして建築の形を最適化していったのです。


建物は斜面地の中に半分埋まり、地中の階段でつながっています。地下に埋まった空間の温度はひじょうに安定していて、クーリング効果が得られています。外観はWOHAのプロジェクトほどではないですが(笑)、緑と建物が一体化したようなものができました。


プロジェクト「葉陰の段床」
木の葉に倣った蒸発気化冷却システム

「葉陰の段床」は、木造3階建ての住宅プロジェクトです。近隣が商業地域のため、「大きなテラスがほしいけれどプライバシーもほしい」という要望に応えて、目隠しをするようなルーバーをデザインしました。よく「ヒートアイランド現象」という言葉を耳にしますが、われわれも都市レベルでの熱のシミュレーションをして、実際にコンクリートジャングルにどのように熱が溜まっているかをリサーチしています。


このプロジェクトでは、葉っぱの蒸発気化冷却の仕組みをナチュラルシステムとして取り入れました。雨水を集めてポンプで吸い上げ、セラミック製パネルに噴霧します。それが太陽の熱によって気化され、涼しい空気が入ってきます。このセラミックパネルは1枚30cm角くらいですが、大きなペットボトル1本分ほどの水を吸収します。気化冷却の量を最大化するように、形態生成のシミュレーションをかけています。近代建築は均質性や効率性といった人間の論理でつくられてきましたが、そこに自然の論理を組み合わせると、有機的な建築のボキャブラリーのほうが合理的だったりします。

セラミックパネルのルーバーに囲まれたところには木漏れ日のような空間ができ、水をスプレーした後では10分程度で7度くらい温度が低くなります。この仕組みの面白いところは、隣の建物にもクーリング効果が生まれることです。


プロジェクト「ハンモックギャラリー」
植生によるシェーディング・ストラテジー

小さな市民ギャラリーのプロジェクト「ハンモックギャラリー」では、新規につくった公園のなかに隈 研吾さんが設計した「九州芸文館」の本館があり、われわれはアネックスの市民ギャラリー棟を設計しました。


敷地には巨大なクスノキがたくさん寄贈されているのですが、巨大な樹木は根も大きいため、建物の基礎を打てるような面積がほとんどないことがわかりました。そこで地中に打った杭をそのまま立ち上げて柱にし、そこからハンモックのように屋根と床を吊るような構造体にしたのです。形態はFEM構造解析によって決定しました。ハンモックと同じですから、吊ったときに少したわみのある曲面のほうが構造としても合理的であり、また人も入りやすいイメージの断面になっています。


周囲に植える樹木は私たちで種類を決め、西日をカットしたり、葉と一緒に日陰をつくるようなシェーディング・ストラテジーを検討しました。最終的に、森の中で建物が共生しているような空間ができ上がりました。


プロジェクト「嬉野市塩田中学校」
Y字型ストラクチャーが雨水を集める

次に紹介するのは嬉野市塩田中学校のプロジェクトです。日本の学校建築は空調システムを導入していないことが多く、自然の通風がとても重要です。そこで自然のクーリング効果がある屋外空間を考えました。


近くに伝統建築があるため景観に馴染むように、Y型の断面を持つストラクチャーで空間を構成しています。大きな樹木に人が寄り添うようなイメージです。このY型の屋根は雨水を集めます。シンガポールは水を高度に利用することで知られていますが、それを日本でもトライしてみようと雨水を集める仕掛けを考えたのです。


葉っぱがうまく水を集めるように、全部で64個のY型ストラクチャーで谷をつくり、そこを雨水が流れていきます。タンクに貯まった雨水を定期的に庭に放流し、「レインガーデン」と呼ぶ庭を緑化していくのです。風の流れ、雨水、日陰という3つのクーリングエナジーを組み合わせることで、涼しいパブリックスペースをデザインすることができました。こうしたデザインは今後のアーバンデザインにおいて重要になってくると思います。


プロジェクト「木場の集合住宅」
日射量を最適化するバルコニーの形状

間もなく竣工する集合住宅が、江東区・木場公園近くの運河沿いにある「木場の集合住宅」です。都内では幹線道路沿いに高層の建物が多く建つため、この集合住宅はそれらの陰に入ってしまい、午前中の1時間しか日が当たりません。そこで、日射量を最適化するようなプログラムをつくり、3,000近いパターンの中からバルコニーの形状を決めていきました。結果、フラットに建てるよりも日射量が60%近くアップしたのです。


▲ バルコニーを最適化するためのシミュレーション。


植物が光を求めるように、建築自体がゆがんで、光を集める空間をつくっているのが特徴です。陽だまりを受けて、さまざまな家具が入り、人のアクティビティが一体化されます。エネルギーの考えと数字だけの話になりがちですが、私たちは「暖かいから、人が集まり、そこで過ごす」といったアクティビティとの関係を重要視しています。


民間企業が参画するグリーンストラテジー

最後に、計画中のプロジェクトを紹介します。最近、民間企業が都市のグリーンストラテジーに参加する可能性について考えています。1つ目は、百貨店の屋上庭園「屋上の森」というプロジェクトです。とあるデパートの屋上に思い切って大きな水盤とその周りに森をつくって、都会のオアシスにしようというわけです。

実は、下を流れる日本橋川の水を吸い上げて、屋上の水盤で有機物やバクテリアを使って浄化し、きれいな水を川に戻すという仕組みです。民間の建物であり、営利目的の屋上庭園ですが、「地域の川をきれいにする」という考え方が大変面白いと思います。実際にこういったプロジェクトは他にも事例があり、ヨーロッパでも多く試みられているようです。

もう1つは、那須にあるソーラーパネルメーカーの保養所です。森を再生し、地域の人の公園にしようというプロジェクトです。日本はシンガポールほど政府による強いグリーン政策がないため難しいですが、民間企業が自社の利益と両立させながら、地域や都市に(環境を)還元していくプロジェクトであり興味深いと思います。


末光弘和 Hirokazu Suemitsu
建築家。1976年愛媛県松山市生まれ。1999年東京大学工学部建築学科卒業。2001年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。2001‒06年伊東豊雄建築設計事務所勤務。シンガポールなどの海外プロジェクトを担当。2007年に末光陽子とSUEP.(スープ)設立。風や熱などのシミュレーション技術を駆使し、自然と建築が共生する新しい有機的建築のデザインを手がける。東京建築士会住宅建築賞(kokage)。第27回吉岡賞(地中の棲処)。JIA 環境建築賞(木籠のオフィス)ほか受賞多数。
http://www.suep.jp


→次回は、WOHA、末光氏、建築評論家のエルウィン・ビライ氏によるトークセッションをレポートします。

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