シンガポールデザインレポート    建築   

「21世紀のサスティナブルな都市のための戦略」レポート(2/5)

17.02.28

「ザ シンガポール ダイアローグ:21世紀のサスティナブルな都市のための戦略」の講演会レポート第2弾は、シンガポールの建築設計事務所WOHA(ウォン・マン・サム氏、リチャード・ハッセル氏)によるプレゼンテーションの後半。「ガーデンシティ・メガシティ」の意図を具体のプロジェクトを通じて語ります。

▲ WOHAのウォン・マン・サム氏(右)とリチャード・ハッセル氏。


WOHAが実践する数々のプロジェクト

これまでの話を踏まえて、最近の事例を紹介します。そのうち3つは竣工済みであり、明日のサスティナブルな都市のためのプロトタイプになるかもしれません。

1.スカイビレッジ(Skyville)2007-2015

「スカイビレッジ」は960戸の公営住宅。シンガポール国民の8割はこうしたソーシャルハウジングに暮らしています。最初に説明した戦略の1つ「マルチプル・グランドレベル(複層の地表面)」を実現したもので、建物全体に水平方向の廊下が行き渡り、150mにわたって歩きまわることができます。そこはコミュニティスペースであり、子どもが勉強したり、友達と遊んだり、犬の散歩もできます。部屋から階段で簡単にアクセスできるため、エレベーターを待つ必要はありません。

棟と棟のあいだには垂直方向の風の通り道があり、自然換気が可能です。内廊下はなく、すべての空間に自然光と自然の風が届きます。屋上庭園には1周400mのジョギングコースがあり、誰でも利用することができます。民間のマンションでは通常最もお金持ちの人が屋上を独り占めにしますが、私たちはコミュニティ全体にとって屋上は大事だと考え、パブリックな空間として設計しました。

全体の仕組みは、960戸のアパートを80戸ずつ12の「村」に分解しています。80戸という数は、ご近所として知り合いになれるコミュニティの(最大)規模だと考えました。高層建築で近隣と知り合いになる秘訣は、建物の中心を開いたものにすること。つまり村のなかにみんなが使える場所をつくることです。この建物は敷地に対して140%がコミュニティスペース。更地より4割も増えています。

▲ 村がスタッキングされているイメージ。「建物全体と村のスケール感が違うため、住人にとっては隣近所の町内という雰囲気が感じられます」(WOHA)。


経験上、向こうに見える人が誰であるかを識別できる最大の距離が直径約30mなので、これを基準にアパートとコミュニティスペースとのあいだに視覚的なつながりを持たせています。私たちはこのスペースを「スカイガーデン」と名づけました。スカイビレッジのすべての村において、こうした空間をつくっています。

▲ 住民へのインタビュー映像では、「外側からはコンクリートジャングルのように見えるかもしれませんが、内側には小さなスケール感があり、家の中に閉じこもるのではなく、外に出て人と交流したいという気持ちになります」「近所の人と関係をつくっていくことができます」「夜遅くには静かになるが、いい風が吹き、眺めも楽しめます」といった感想を紹介。


2.パークロイヤル オン ピッカリング(Parkroyal on Pickering)2007-2013

ホテルとオフィスから成る複合施設で、敷地面積の240%が緑地です。敷地の前の公園は、コーチョン・リンという華僑の富豪が「労働者のための公園」として寄付したものです。私たちは、そうした寛大さや想いを踏まえ、建物のあらゆるところに植物を挿入して公園を再現するように設計しました。駐車場の建物さえも小さな山に見えるように緑で覆われています。

プールは、都市のなかのリゾートです。「都市か田舎か、自然か建築か」といった二者択一ではなく、すべてを一緒に楽しむことを考えました。密度と自然を同時に享受することができたら素晴らしいと思います。客室につながる廊下は、庭の中を進むように水、植物、木々で囲まれています。高層階でも窓の外には青々とした自然があり、都市と建築の関係性としてとても面白いものができ上がりました。

ホテルの素敵なところは、宿泊者なら誰でも建築を楽しめることです。竣工してから多くの人がこの建物に興味を持ってくれていることがわかりました。建物をランドスケープとして見立てるという試みに対して、人々は本当によい反応を見せてくれています。この建築が、人の心を惹きつける何かを持っているということは、私たちにとっても大変興味深いことです。

▲ ビデオはドローンで撮影されたもの。WOHAのウォン・マン・サム氏はドローンのオペレーターに、「猛禽類が自分の巣をつくる場所を探しているような気持ちになって撮影してほしい」と依頼。「人のためだけでなく動物のためにも優れた環境をつくっていることを見せたい」という考えからだ。


3.オアシア・ダウンタウン(Oasia Downtown)2011-2016

このプロジェクトでは、「都市における緑化」に対して強い興味を持って取り組みました。更地のときに比べて1,100%の緑化を実現しています。もしも都市の1割の建物がこれを実践するなら、緑の自生を大いに促すことができるでしょう。

3分の2はホテル、3分の1が小規模の事務所から成る複合的施設です。大変密度の高い地域にあります。近隣の人々にとっては窓から「庭」を見ることができ、建物の中にいる人は自然によって縁取られた都市の景色を見ることができます。都市と市民のあいだを橋渡ししてくれるような景色です。

私たちは「スカイビレッジ」で水平の庭をつくることができましたが、今度はそれを垂直方向につなげていきたいと思いました。このプロジェクトではそれを実現し、リスなどの小さな動物が駆け上っていく様子を見ることもできます。

▲ 植物がどのように建物を覆っていくかを記録した映像。このビデオは1年ほど前のもの。この1年でさらに緑化が進んでいる。


自給自足の都市を目指して

結びとして、今後どこに向かっていきたいかを紹介します。それは「自給自足を目指す」ことです。私たちが2011年に取り組んだマスタープラン「透過する格子型都市(Permeable Lattice City)」では、太陽光エネルギーで野菜をつくり、水のリサイクルでも100%自立できるような15万人規模の都市を構想しました。そこでは食物やエネルギーを共有するシェア経済が基本となっています。

このマスタープランは500万、600万といったより大きな人口規模でも展開が可能です。シンガポールの国土は約700㎡ですが、私たちはこのプランによって200㎡を下回る敷地でも現在の人口を支えることができると考えています。そして、こうした熱帯地域の優れた都市モデルをつくることができたなら、人々がともに生きていくことができるサスティナブルな未来へとつながっていくのではないかという希望を持っています。


→建築家の末光弘和氏(SUEP.)のプレゼンテーション、建築評論家のエルウィン・ビライ氏を交えた4人によるトークセッションの模様に続きます。


WOHA
1994年にWong Mun Summ(ウォン・マン・サム、1962年シンガポール生まれ)とRichard Hassel(リチャード・ハッセル、1966年オーストラリア・パース生まれ)が設立したシンガポールを拠点とする建築事務所。シンガポール都市再開発機関(URA)やシンガポール陸上交通局のアドバイザーを歴任。地域の伝統やコンテクストを読み解き、現代的なデザインと融合させることで知られ、熱帯気候に適した建築が評価される。アガ・カーン建築賞、RIBA国際建築賞など受賞多数。
http://www.woha.net

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