連載コラム「クリエイターの想いを尋ねて」   

第21回「デザイナーが自主的に取り組む研究活動『Windsor Department』(後編)」

17.02.15

前編(こちら)に続いて、「ウィンザーチェア」の研究開発を行うデザイングループ「Windsor Department(ウィンザーデパートメント)」の藤森泰司、INODA+SVEJE、DRILL DESIGNが取り組んできた試みや考えを紹介していきたい。

インタビュー・文/浦川愛亜

▲ 2011年にPLOT Gallery and Shop for Prototypeで開催された第1回の展覧会。研究のために集めた、世界各国の建築家やデザイナーが手がけたウィンザーチェアの写真が貼られている。

▲ DRILL DESIGNの「OFFSET」。スタッキングができる椅子を目指してデザインされた。


シンプルで軽やかな現代の椅子を

前回の記事で、INODA+SVEJEの猪田恭子がウィンザーチェアは「部材が多く図面に起こしにくい」と指摘していた。

その特徴とも言える部材や装飾の多さ、座面に無垢板材を使用することが、裏を返せば製作や持ち運びのしにくさにもつながり、またシンプルで軽快なものが好まれる現代においては、受け入れられにくいデザインと言えるのかもしれない。

DRILL DESIGNは、2010年から2016年まで5脚をデザイン。ウィンザーチェアがまとう懐かしさや幸福感はそのままに、最小限の部材を使ってリデザインできないかと考えた。素材や構造に工夫を凝らし、軽量化も図った。座面を薄くし、背棒の数を減らしているが、強度や耐久性は確保されている。それは現代の日本の高度な木工技術によって実現できたことだという。

2010年の「BEETLE(ビートル)」では、無垢材よりも安価な集成材や合板から切り出したパーツを組み合わせて軽量化を図り、価格帯も抑えた。2014年の「OFFSET(オフセット)」では、背もたれとリング型のストレッチャー(脚の補強材)を接合し、強度を高めて軽量化を図ったのと同時にスタッキングも可能にした。

▲ DRILL DESIGNの「CREST」。曲げ木を用いたボウ(弓)・バックという、ウィンザーチェア特有の背の形式をベースにした。


やさしく包み込むような快適性を追求

DRILL DESIGNは、座り心地の良さも追求してきた。2013年の「CREST(クレスト)」では、座面に薄い合板を採用してクッション性を持たせ、背もたれにはY字型の背棒をデザイン。それが脊椎を支え、アーチ部分がその周辺の筋肉をサポートする仕組みになっている。

最新の「ARGYLE(アーガイル)」(2016年)では、背もたれの丸棒を立体的に交差させて、背骨のS字カーブに沿った3次曲面をつくった。背や腰が当たる位置や角度、奥行きが考えられていて、座ると体を包み込むように支えてくれる。

クッション材を使わずに、木の棒材だけで快適な座り心地を実現できるという可能性が見えたことで、DRILL DESIGNの林 裕輔は「これをさらに発展していきたい」と今後の展望を語った。

▲ DRILL DESIGNの「ARGYLE」。軽量化と快適性を考え、座面にはファブリックを張った。


台のような椅子にリデザイン

藤森泰司は、計4脚の椅子をデザインした。藤森が師事した家具デザイナーの大橋晃朗は、家具のことを「台のようなもの」と言い表していた。その遺伝子がたびたび藤森の家具デザインに垣間見られる。

2010年に発表した「Ruca(ルカ)」も、座面が浅く華奢なプロポーションで、朝食時などの短時間にちょっと腰かけるための、まさに台のような機能を持った椅子である。2013年の「Flipper(フリッパー)」もまた、台のような丸座のスツールに背を付けて、「腰かけが椅子になる『瞬間』のような椅子」を考えたという。

▲ 藤森泰司の「Cooper」。座ったときに力が強くかかる背棒を座面に貫通させている。


現代の椅子としてリデザインするために、藤森もさまざまな試みを重ねている。「Flipper」は、粉体塗装を施したスチール材を採用し、屋外での使用を可能にした。2014年の「Cooper(クーパー)」では、ウィンザーチェアの基本構造に立ち戻り、構成部材を最小限にしてどのような椅子ができるかと考えた。無垢材の座面に、2本の背棒と4本の脚。背棒は座面に貫通させて、後脚に接合することで強度を確保している。           

2016年に発表した最新の「Tremolo(トレモロ)」では、背棒と脚にメッキ加工を施した8mm径のスチール材を使用した。座ったときに体の微細な動きに反応して、背もたれがしなやかにたわむ仕掛けになっている。トーネットの椅子の背もたれのような効果を狙ったという。

▲ 藤森泰司の「Tremolo」。「いかに心地良くたわむかを、単純な方法で実現することを目指した」と言う。


現代的な新しさを取り入れて

INODA+SVEJEは、現在までに5脚をデザイン。彼らは2011年の「SNOW FLAKES(スノー・フレークス)」をベースに毎回、デザインを発展させている。

最初に手がけた「SNOW FLAKES」では、ウィンザーチェアのベーシックなデザインをもとに考えたという。家具であまり使用されてこなかった白い人工大理石を採用し、現代性をもたらした。木材と同じ工具で切削や研磨の加工が容易にできる材質であり、木の茶色との組み合わせも魅力につながった。

これを発展させて、2013年の「Pillow-back Windsor(ピローバック・ウインザー)」では、ノックダウン式に取り組んだ。座面を突き抜けて脚の役割も担っている肘掛けと、背棒は取り外しが可能だ。猪田が活動拠点のミラノと日本を往復する際に、自分ひとりでも持ち運びしやすいようにノックダウン式を思いついたというエピソードもある。その後、この椅子は宮崎椅子製作所の協力を得て改良し、「PINDE(ピンデ)」という名称で発表している。

▲ INODA+SVEJEの「Manta ray」。半屋外で使用できるデッキチェアのような椅子をイメージしたという。


活動の目的は、製品化ではなく研究開発

さらにそれを発展させたのが、2014年の「Manta ray(マンタ・レイ)」だ。笠木をなくし、背棒が座面を突き抜けて脚の役割を担い、3本脚で構造体を支えるという、大胆なデザインに昇華させた。

実は最初の2つの製品では、実用性や耐久性に不安を感じていたのだが、猪田の「製品化のことは考えなかった。プロジェクトの目的である研究開発に専念した」という言葉を聞いて、つい製品化をゴールと考えてしまう自分の思考を反省したのと同時に、冒険心やチャレンジ精神をもって果敢に取り組んだ彼らの姿勢を興味深く思った。

その後、彼らは「Manta ray」の構想をさらに練り上げて、「Petalo(ペタロ)」を開発。人間工学に基づいて無垢材の背と座、肘掛けを薄く削り上げ、花びらのごとく体を優しく包み込むような有機的なフォルムに仕上げた。この椅子でも背や肘掛けがそのまま脚になり、強度を高める役割も担う。

▲INODA+SVEJEの「Petalo」。それぞれ独立した背とアームをホゾでつなぐことで強度を確保した。


互いに刺激を受けながら開発

この活動では3組が途中段階で見せ合い、意見を交換している。「ふだんは知り得ないデザインに対する考え方やものづくりの姿勢を知ることも刺激になった」と、DRILL DESIGNの安西葉子は言う。

人間工学に基づいた設計を大事にするINODA+SVEJE、それが使われる空間やシーンを念頭に置いてデザインを考える藤森、家具そのものをプロダクト的に発想するDRILL DESIGNと、三者三様だ。

また、展覧会で発表することで、第三者の意見を直接、聞くのも大事なことだ。猪田は、この活動で「アウトプット」したもの、あるいは来場者からの意見を真摯に受け止め、それらを自身のなかに再度「インプット」し、ほかの製品づくりに生かすデザインの循環を行っていきたいという。今後は海外での展示など、日本以外の反応も知りたいと考えているそうだ。

▲ 2016年11月に国際展示場で行われたIFFT(インテリアライフスタイル)展の会場風景。


活動で試みたデザインを今後に生かす

このプロジェクトは、DRILL DESIGNの林と藤森が互いにウィンザーチェアの存在が気になっていることを知り、その魅力が何なのか、研究会をつくって実際に椅子を製作して解明してみようという思いから始まった。

これまでの活動を振り返って、藤森はこう語った。「何かが明確にわかったというよりも、デザインをしていく過程での小さな発見の積み重ねによって、自分自身の椅子への取り組み方がより自由になり、デザインの方法も変わりました。手近にあった木材を使っていかに身体を支えるかという『つくる』論理から生まれている、とてもプリミティブな椅子。椅子とは何かということを改めて勉強しているところです」。

この活動の次の展開も楽しみだが、ここで培った経験や刺激が今後、それぞれのデザインのなかでどのように生かされていくのか。彼らの他の次回作を心待ちにしたい。


Windsor Department
http://windsordepartment.com


DRILL DESIGN(ドリルデザイン)/林 裕輔と安西葉子によるデザインスタジオ。2001年設立。プロダクトデザインを中心に、グラフィック・パッケージ・空間デザインなど、カテゴリーを超えてデザインとディレクションを行う。デザインは目的ではなく未来をつくる手段という考えの下、クリエイションから広がる新しい可能性を探っている。主な仕事にPaper-Wood、geografia、VILLAGE series、CAMPER for hands、つくし文具店がある。レッドドットデザインアワード、ドイツデザインアワードなど受賞歴多数。http://www.drill-design.com


INODA+SVEJE(イノダ+スバイエ)/猪田恭子とデンマーク・オーフス生まれのニルス・スバイエによるデザインチーム。猪田は、ミラノのISAD(Instituto Superiore Architettura e Design)で建築デザインを学ぶ。スバイエはデンマーク王立美術大学を卒業後に渡伊。ステファノ・ジョバンノーニの下で働いた後、デンマークへ帰国。コペンハーゲンのIPU開発研究所に所属し、2000年にコペンハーゲンでイノダ+スバイエを結成。03年に拠点をミラノに移し、家具を中心に、医療機器、スピーカーなどのプロダクトデザインを手がける。http://inodasveje.com/wp02/


藤森泰司/家具デザイナー。1991年東京造形大学造形学部デザイン学科卒業後、家具デザイナー大橋晃朗に師事。92年より長谷川逸子・建築計画工房に勤務。99年に藤森泰司アトリエ設立。家具デザインを中心に据え、建築家とのコラボレーション、プロダクト、空間デザインを手がける。近年は図書館などの公共施設への特注家具をはじめ、ハイブランドの製品から、オフィス、小中学校の学童家具まで幅広く手がけ、スケールや領域を超えた家具デザインの新しいあり方を目指している。グッドデザイン特別賞など受賞多数。http://www.taiji-fujimori.com/ja/


COMMOC
http://commoc.jp

TIME&STYLE
http://www.timeandstyle.com

宮崎椅子製作所
http://www.miyazakiisu.co.jp



浦川愛亜/エディター&ライター。岡山県生まれ。日本大学藝術学部文芸学科ジャーナリズム専攻卒。『ECIFFO』『AXIS』編集部を経て、渡伊。帰国後、『Martha Stewart』日本版編集部を経て、2003年よりフリーに。デザイン分野を中心に雑誌、書籍、ウェブメディアで活動。書籍編集に『長大作 84歳現役デザイナー』(長 大作 著、ラトルズ刊)、『あそぶ、つくる、くらす デザイナーを辞めて彫刻家になった』(五十嵐威暢 著、ラトルズ刊)などがある。

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