連載コラム「クリエイターの想いを尋ねて」   

第20回「デザイナーが自主的に取り組む研究活動『Windsor Department』(前編)」

17.01.18

クライアントを持たず、デザイナーが自発的に自費で研究開発を行い、ものづくりの考え方や姿勢を展覧会で発表する。「Windsor Department(ウィンザーデパートメント)」は、藤森泰司、INODA+SVEJE(イノダ+スバイエ)、DRILL DESIGN が2011年に結成したデザイングループ。17世紀後半に英国で生まれた椅子「ウィンザーチェア」の研究開発を継続している。

▲ 2011年にPLOT Gallery and Shop for Prototypeで開催された1回目の展覧会。

インタビュー・文/浦川愛亜


デザインの歴史に大きな影響を与えた椅子
   
ウィンザーチェアとは、分厚い座面に背棒や脚が直接差し込まれているのが特徴の椅子で、木製家具の原型ともいわれている。もともとは民衆が生活に必要な道具として、自分たちでつくり出したものだ。

『ウィンザーチェア大全』(島崎 信、山永耕平、西川栄明・共著、誠文堂新光社)には、その歴史やデザインの特徴、製作技法などが詳細にわかりやすく解説されている。例えば、シェーカーやトーネットの家具よりも歴史が古いこと、背もたれや脚、肘掛けに多様なデザインがあることなどだ。

特筆すべきは、製作にあたって合理的な分業生産を確立し、それが近代家具産業の発展に大きな影響を与えたこと。主に北欧と日本の建築家やデザイナーがリデザインに挑戦し、デザイン史に残る名作椅子を数多く生み出したことにある。

北欧ではアルヴァ・アアルトやハンス・J・ウェグナー、日本では豊口克平や渡辺 力が知られているが、ほかにも世界中でさまざまにつくられている。

▲ 藤森泰司の「Ruca」。「次の行為に移る『途中』を心地良く受け止めてくれる椅子」をテーマにデザインされた。


プロジェクトが生まれたきっかけ

私が最初に藤森泰司の「Ruca(ルカ)」を見たのは、2010年にアクシスギャラリーで開催された「SIDE 01/chair+(チェアプラス)」展だった。FDB(デンマーク生活協同組合連合会)の座面が浅く、華奢なプロポーションの「J77」に触発されてデザインしたという。60年代にフォルケ・パルソンが、ウィンザーチェアをリデザインした椅子である。

藤森は、10年ほど前からウィンザーチェアの存在が気になっていた。特別な物ではなく、庶民のための日常で使う椅子であり、モダンデザインの椅子の源流の1つともといわれていること、また「台」のような座に背を付けたようなプリミティブな構造も面白いと思っていたという。

▲ DRILL DESIGNの「BEETLE」。戦後の日本ではウィンザーチェアが独自に発展。その際の民藝の椅子のフォルムをベースにしている。


DRILL DESIGNが初めて手がけた椅子

藤森が「Ruca」をつくっている頃、DRILL DESIGNでは初めて椅子の開発に取り組んでいた。というのも、それまで椅子が好きで、デザインをしたいと思いながら、世界中にすでに無数の名作が存在するなかにあって、自分たちにはまだつくることができないと感じていたからだ。そして、結成してから9年目を迎えた2010年、初めて椅子のデザインに向き合った。

デザインをするうえで基としたのが、ウィンザーチェアだった。「昔は野暮ったい椅子だなと思っていたんですけれど、カフェやレストランなど街中で見かけるうちに、懐かしさや幸福感をまとったその椅子に次第に惹かれていき、どういう構造でできているんだろうと思って興味が高まっていきました。これを現代の椅子として、新たにデザインできないかと考えたんです」と林 裕輔は言う。

のちに「BEETLE(ビートル)」として発表した、そのプロトタイプを製作していた頃、DRILL DESIGNの事務所にたまたま藤森が訪れ、互いにウィンザーチェアの存在が気になっていることを知った。そして、その魅力が何なのか、研究会をつくって実際に椅子を製作して解明してみようという思いに至ったのだという。

▲ DRILL DESIGNの「VILLAGE」。座面を薄くした代わりに、そり止めとして裏にX形状の台座を付けて強度を持たせている。


ヨーロッパでは空気のような存在

さらに、ウィンザーチェアは英国で誕生した椅子であることから、藤森と林はヨーロッパの視点も知りたいと、ミラノを拠点に活動するINODA+SVEJEに声をかけた。そして、2011年に「Windsor Department」が結成された。

INODA+SVEJEのデンマーク生まれのニルス・スバイエにとっては、ウィンザーチェアは「この後に続いた椅子の祖父のような存在」であり、ヨーロッパでは「古くから街の至るところにあって、空気のような存在」だという。

「デンマークでは、椅子のリデザインが数多く行われてきた歴史と文化があり、ウィンザーチェアも私たちの潜在意識に強く刻み込まれています。私たちが今、この椅子をリデザインすることに深い関係性を感じずにはいられません。現代の生活に合わせて翻訳して創造することを通じて、その時代に生きたデザイナーと対話しながら、彼らの考えや思いを知ることができる素晴らしい椅子だと改めて思っています」。

一方、猪田恭子は、これまでウィンザーチェアにあまり興味を抱いたことがなかったそうだ。プロジェクトにあたって、本を読んで一から勉強した。「ロッキングチェアやサイドテーブル付きのもの、乳児を隣に座らせられるものなど、多彩なデザインがあることを知って驚きました。また、分業体制で合理的につくられているといいますが、部材が多くて図面を起こしにくく、実は合理的ではないのではと思ったりもしました」と語り、調べていくうちにこの椅子の魅力に引き込まれたようだ。


▲ INODA+SVEJEの「SNOW FLAKES」。ウィンザーチェアのベーシックなデザインをもとに考え、人工大理石を採用して現代的な新しさを取り入れた。


今の時代の感受性を反映させたデザイン

往年の建築家やデザイナーと同じように、藤森泰司、INODA+SVEJE、DRILL DESIGNもまた、現代の新しいウィンザーチェアを創造しようと取り組んでいる。

DRILL DESIGNの安西葉子は言う。「私たちは現代の新しい椅子をつくることを目指していて、さらにその先の一歩を進めるための、新しいものづくりをしたいと考えています」。林は「今、それをやる意味があるかどうか、それが発明につながるかということをいつも自分たちに問うていました。椅子の形式をいかに守っていくかでなく、いかに発展、進化させていくかを目標にしています」と語った。

「リデザインとは、名作の形を模倣することではない」と、藤森も同じ意見だ。以前、本連載でも語っていたように、藤森は椅子をデザインする際、「同時代性」が重要だと考えている。「人間の体の構造は、古来より大きくは変わっていませんが、椅子にはつくられたときの時代の感受性が反映されています。椅子をデザインするということは、その感受性を今の視点で追体験し、新しいものに進化させていくことだと思うのです」。

▲ INODA+SVEJEの「Pillow-back Winsor」と、右が宮崎椅子製作所の協力を得て改良された「PINDE(ピンデ)」。構造を強化し、腰と笠木、肘掛けに取り付けたヌメ革製のクッションを木製に変えた。


ものづくりの考えや姿勢を伝えること

こうした企画展は数回続いた後で自然消滅してしまうことが多いが、現在まで4回が開催された。4回目の展覧会は2016年6月に開催され、同年11月のIFFT(インテリアライフスタイル)展にも出展した。これまでの家具を一堂に集めて展示し、活動を振り返るトークセッションも行った。

いくつか製品化も実現した。藤森の「Ruca」「Flipper(フリッパー)」はCOMMOCから、DRILL DESIGNの「VILLAGE(ビレッジ)」「OFFSET(オフセット)」はTIME&STYLEから製造販売されている。プロトタイプのときにメーカーが興味を持ち、製品化を目指して改良を重ねていったものが多いそうだ。

だが、「この活動は、製品化がゴールではない」と藤森は言う。「デザイナーは常に研究しているものです。この活動では、その研究成果を発表すること、僕らのものづくりの姿勢やデザインの考え方を伝えていくことが重要だと考えています」。


▲ 藤森泰司の「Flipper」。シンプルな丸座のスツールに、身体を預ける最小限の背を付けるというイメージがもとになっている。スチールフレームに粉体塗装を施し、屋内外で使用可能だ。


2011年の初回から展覧会を見ているが、最初の頃は彼らがこの活動で何をしたいのか、何を目指しているのか、正直、わからなかった。ほかからも同じような声が上がっていたそうだ。回を重ねながら、話を聞くうちに少しずつ彼らの目指す方向性が見えてきたように思う。

それぞれがどのように新しいデザインに挑戦していったのか。彼らのものづくりに対する考えを次回、ご紹介しよう。


Windsor Department
http://windsordepartment.com

DRILL DESIGN(ドリルデザイン)/林 裕輔と安西葉子によるデザインスタジオ。2001年設立。プロダクトデザインを中心に、グラフィック・パッケージ・空間デザインなど、カテゴリーを超えてデザインとディレクションを行う。デザインは目的ではなく未来をつくる手段という考えの下、クリエイションから広がる新しい可能性を探っている。主な仕事にPaper-Wood、geografia、VILLAGE series、CAMPER for hands、つくし文具店がある。レッドドットデザインアワード、ドイツデザインアワードなど受賞歴多数。http://www.drill-design.com

INODA+SVEJE(イノダ+スバイエ)/猪田恭子とデンマーク・オーフス生まれのニルス・スバイエによるデザインチーム。猪田は、ミラノのISAD(Instituto Superiore Architettura e Design)で建築デザインを学ぶ。スバイエはデンマーク王立美術大学を卒業後に渡伊。ステファノ・ジョバンノーニの下で働いた後、デンマークへ帰国。コペンハーゲンのIPU開発研究所に所属し、2000年にコペンハーゲンでイノダ+スバイエを結成。03年に拠点をミラノに移し、家具を中心に、医療機器、スピーカーなどのプロダクトデザインを手がける。http://inodasveje.com/wp02/

藤森泰司/家具デザイナー。1991年東京造形大学造形学部デザイン学科卒業後、家具デザイナー大橋晃朗に師事。92年より長谷川逸子・建築計画工房に勤務。99年に藤森泰司アトリエ設立。家具デザインを中心に据え、建築家とのコラボレーション、プロダクト、空間デザインを手がける。近年は図書館などの公共施設への特注家具をはじめ、ハイブランドの製品から、オフィス、小中学校の学童家具まで幅広く手がけ、スケールや領域を超えた家具デザインの新しいあり方を目指している。グッドデザイン特別賞など受賞多数。http://www.taiji-fujimori.com/ja/


COMMOC
http://commoc.jp

TIME&STYLE
http://www.timeandstyle.com

宮崎椅子製作所
http://www.miyazakiisu.co.jp



浦川愛亜/エディター&ライター。岡山県生まれ。日本大学藝術学部文芸学科ジャーナリズム専攻卒。『ECIFFO』『AXIS』編集部を経て、渡伊。帰国後、『Martha Stewart』日本版編集部を経て、2003年よりフリーに。デザイン分野を中心に雑誌、書籍、ウェブメディアで活動。書籍編集に『長大作 84歳現役デザイナー』(長 大作 著、ラトルズ刊)、『あそぶ、つくる、くらす デザイナーを辞めて彫刻家になった』(五十嵐威暢 著、ラトルズ刊)などがある。

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