ホンダデザイン シリーズ広告コンセプト   

「The Difference Engine――ひとりひとりが、モノや人の心を動かしていく原動力だ/後編」

17.01.11

2016年から1年間にわたってAXIS誌に掲載されてきたホンダのデザイン室によるシリーズ広告。「The Difference Engine」というキャッチコピーの下、四輪、二輪、汎用、ロボティクスのデザイン室がコラボレーションして多様なビジュアルを展開してきました。シリーズ広告プロジェクトに関わったメンバーに話をうかがいましたが、今回はその後編です。前編はこちらから。

AXIS184号に掲載のシリーズの第4回。大きな画像はこちらからご覧ください。

あえて“よくわからない機械感”を

――ひときわインパクトの強いビジュアルです。これはどのようなコンセプトなのでしょう。

大門路人氏 本田技術研究所 汎用R&Dセンター 第3開発室 デザイナー
これを見て何かわかる人は少ないと思います。汎用製品のデザイナーって表のカバーだけではなくて、外からは見えにくい機能部品など“地味”なところにも関わっているんです。日常的な視点からは見えない“機械感”を、かなり直感的に打ち出してみました。


大門路人氏 本田技術研究所 汎用R&Dセンター 第3開発室 デザイナー

――このプロダクトは何ですか?

大門 家庭用カセットガスボンベで動く耕うん機「ピアンタ」です。デザイナーの目線と言えばいいのでしょうか、普通はその角度では見ないという目線からパーツを見ています。赤い色は汎用プロダクトのイメージカラー「Power Red」。実はピアンタに赤はありませんが、知られざる“Unknown”感を強調したかったのであえて赤く塗装してロゴも消しました。「よくわからない機械」をつくっているのが私たちなので、デザイナーのちょっと変わった視点を表現したかったのです。


澤井大輔氏 本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン室 FPC(Future product Creation) 主任研究員

澤井大輔氏 本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン室 FPC(Future product Creation) 主任研究員
大門はいろいろなアイデアを出していて、最後にこれをポーンと出してきたとき、みんなポカーンとしていた(笑)。汎用製品の広告はもともと使用シーンのビジュアルが多いんですよ。二輪、四輪と同じようにストーリー的なシーン表現にすると、かえって既視感が強くなってしまう。この表現もチャレンジですよね。「2回目、3回目の路線とは違うけれど、これでいこうよ!」と一発で決まっちゃいましたね。

――このビジュアルはCGでつくったのでしょうか。

大門 最初はCGでラフ案をつくり、全く同じイメージを撮影でつくり込みました。赤い背景に製品を配置して赤い照明を当て、宇宙船が浮かんでいるような世界観を表現しました。浮いているように見せるため、3Dプリンターで専用のジグをつくってピアンタを固定しました。途中でメキメキ言い出して不安だったのですがなんとかもってくれた。撮影してみると、CGよりも写真のほうが強くて、迫力がありますね。製品にはアルミ鋳物の鋳肌が粗い部分もあるのですが、それもあえてむき出しにしようと考えました。撮影する前に一晩かけて製品を磨き、撮影した写真はほとんど修正していません。


本田技術研究所 二輪R&Dセンター デザイン開発室 研究員の田中 洋氏(左)と松井辰也氏。

松井辰也氏 本田技術研究所 二輪R&Dセンター デザイン開発室 研究員
撮影は二輪デザイン室の撮影スタジオで行いました。大門のラフ案がきちんとできていたのでその通りに組んでいき、すんなり2時間くらいで終わりました。

田中 洋氏 本田技術研究所 二輪R&Dセンター デザイン開発室 研究員中
CGのラフを撮影で再現したので、見方を変えればCGっぽい感じもします。むしろそれを狙っていた大門の想いがきちんとビジュアルになっているように思います。当初のイメージがブレずに最後まで行けたのはこの回だけですね。

――周囲の反応はいかがでしたか。

大門 インパクトが強すぎて「これなに?」という反応です。でもあえて説明をせず、悩んでもらっていますが。AXISの広告なら説明しなくてもいいのかな、と思っています(笑)。

輿石 健氏 本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン室 1スタジオ 主任研究員
とても面白いと思いました。畑で使う道具には見えません。彼が最初につくってきたCGのラフ案はすごくきれいだったのですが、写真のように粗い部分が見えているほうがいい。それは僕が担当したロボットの回でもすごく感じたことです。

AXIS185号に掲載のシリーズの第5回。大きな画像はこちらからご覧ください。

ASIMOとUNI-CUBが会話――ロボットを身近に感じるやさしい世界観

――4回にわたってさまざまなアプローチのビジュアルが出てきたなか、最後につくるのは大変ではありませんでしたか。

輿石 後になればなるほど辛くなりました(笑)。今までといちばん違う点は、「ASIMO」「UNI-CUB」もまだ商品ではないということ。お客様に一部体験していただくことはできても、買ってはいただけないため、商品としての訴求が難しいのです。そこで思い切って、真っ白な空間に真っ白なロボットが2ついる、というシンプルな構成にしてみました。


輿石 健氏 本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン室 1スタジオ 主任研究員

――お話をしているみたいですね。

輿石 SFやファンタジー映画のように、誰もいない夜の研究所でASIMOとUNI-CUBが「みんなをどうやって喜ばそう」と会話している場面です。ASIMOがバランスのとり方をUNI-CUBに教えてあげているのに、UNI-CUBが「君はひとりで立っているだけじゃん。僕は人を乗せて動くんだからね」と言っている。実はUNI-CUBのほうがハードな仕事をしているのかもしれません。ほかにもいろんな場面をたくさん考えたのですが、結局最初のこの案になりました。

澤井『スターウォーズ』のR2D2とC3POみたいな関係ですね。実はUNI-CUBのほうが賢いかもしれないね(笑)。


――撮影で苦労したことはありますか。

輿石 今回は実機のスケジュールが合わずモックアップを使いました。ラフ案に合わせて、モックをテグスで釣って同じポーズをとらせてから撮影するのですが、どうも本物の動きにかなわなくて困りました。データ上は全く同じ形なんですが、本物のASIMOの“生きている感”がなかなか出ない。例えば、本物の指は伸びるのですが、モックだと若干指が丸まってしまうなど。実は後で画像ソフトで細部を修正して、本物の部品を“移植”したりしています。
 撮影は二輪のスタジオで行いましたが、スタジオに入るまでにスタイロフォームで上げ底をして、テグスの長さを揃える、といった下ごしらえに時間がかかりました。撮影時も画面を見て違和感があれば何度も微妙に修正して撮ってもらいました。

――四輪とロボットは隣同士ですね。どのように見ていましたか。

澤井 面白いことにロボットは四輪デザイナーにとって身近なんです。実際UNI-CUBのデザインも四輪のデザイナーが担当しました。輿石のデスクは私の隣で、彼らが何を考えているか? 日頃から触れています。ホンダのロボティクスって遠く冷たい未来ではなく、身近に感じるやさしい世界観があって、人に寄り添う未来に取り組んでいる。このビジュアルも将来起こるロボット同士のコミュニケーションが示唆されていると思います。人とロボットの関係性などもこれからのデザインの大事なテーマになるでしょう。


鈴木祐二氏 本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン室 管理推進ブロック

鈴木祐二氏 本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン室 管理推進ブロック
ホンダのロボティクスの打ち出し方には、いろんなアプローチがあるような気がします。今回のようにシンプルな白い空間で見せるのは、日常的なイメージとは少し違う。でも人の空想の余地を残すところがあるので、物語性を感じさせますよね。

輿石 白い背景は余白みたいな意味合いもあるんです。ASIMOの顔を真っ黒にしているのも同じ理由。顔をつくっちゃうとその顔にしか見えなくなるので、あえて黒くして「見る人が想像して下さい」としているんです。

デザイナーは人の心の世界に作用するモノやコト、コミュニケーションをつくっていく

――さて、6回目はどうしましょうか。

澤井 今日みんなが集まったので、この後ミーティングするつもりです(笑)。当初、AXISから「(広告シリーズを)実験と思ってやってください」と言われましたが、まさに実験の場になったかなと思います。並べてみるとそれぞれ違うんですけど、最初に掲げた「The Difference Engine」とはこういうことだったのかな、と腑に落ちた感じがします。最後はもう1回全員でコラボレーションしてみたいです。

――今回の広告シリーズに取り組んでみて気づいたことなどありますか。

澤井 今のデザイントレンド、特にカーデザインは欧州から来ているので、1つに統一された価値観やカラーの象徴的な表現だったりする。それがブランドの信頼や自信につながっているんでしょうけれど、われわれはもっと多様性があってもいいと思っているんです。それがホンダの原点にあるような気がする。本田宗一郎の「人間尊重」というフィロソフィーも、ひとりひとりが活躍できる多様性のことを指していると思っているんです。今回のプロジェクトを通じて、「みんな違っていい。色々あっていいんだ」ということを再確認できたような気がします。
 その時代その時代で進化し続けるのがホンダです。デザインは人の感情や感覚に作用するものです。たとえ新しいテクノロジーが入ってきたとしても、やはり私たちデザイナーは人の心に作用するモノやコト、コミュニケーションをつくっていかなければならない。今回、そのことを再認識しました。

――どうもありがとうございました。

ホンダのデザイン室によるシリーズ広告の6回目は3月1日(水)発売のAXIS186号に掲載予定です。お楽しみに。

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