連載コラム 「大谷和利の気ニナルデザイン」   

vol.81 ディスレクシア(失読症)の人のためのフォントデザイン

16.12.26

俳優のトム・クルーズは、自らディスレクシアであると公表し、シナリオなどを読むのが辛いことを告白している。日本では失読症などと訳されるディスレクシアは、知能や理解力などに異常がないにもかかわらず、文字の読み書きに困難を覚える学習障害である。

例えば、”p” “q” “d” “b” などの形が似ていたり対象形になっている文字や、”i” “l” “j” のように字間が狭く区別のつきにくい文字などが文章内に出てくると、その部分が判別できず、誤読や意味の取り違えなどが発生する。

自らもディスレクシアに悩むデザイナーのクリスチャン・ボアーによれば、スティーブ・ジョブズやビルゲイツ、ジョン・レノンなどもディスレクシアの症状があり、にもかかわらず偉大な業績を上げた人物として紹介している。

自身を含めて、失読症が克服できれば、社会的に活躍できる人々が世の中にもっといるはずだと考えたボアーは、自らの職業を生かして、この問題にユニークな視点から切り込んだ。それは、ディスレクシアでも判読しやすいフォントをデザインするということである。

そのためには、普通であれば守るべきフォントデザインのルールを破る必要があったという。具体的には、似た文字でもあえて相似形にならないように傾きを与えたり、文字の下半分を意識的に太くデザインして上下の区別を明確化したり、字間が一般的なバランスよりも広くなるように調整するといった作業がそこに含まれている。

完成したディスレクシー・フォント(https://www.dyslexiefont.com/en/dyslexie-font/)は、非ディスレクシアの読者にも読みやすく、児童書やアプリなどでもサポートされるケースが増えてきている。これもまた、デザインが社会に変革をもたらしつつある好例の1つといえるだろう。




大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。

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