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2つの視点を行ったり来たり、「トラフ展 インサイド・アウト」

16.11.10

TOTOギャラリー・間で、建築からインテリア、プロダクト、インスタレーションまで幅広い領域で精力的に活動するトラフ建築設計事務所の個展が開催されている(12月11日まで)。デビュー作「テンプレート イン クラスカ」(2004年。目黒にあった旧いホテルのリノベーションで手がけた客室のディスプレイ)で名を馳せ、その後の活躍ぶりはよく知られる通りだ。

トラフの鈴野浩一氏と禿 真哉氏にとって「視点を変える」というシンプルなデザインの方法論は、ユニット結成以来変わらないクリエイションのコアみたいなもの。本展では、2004年から現在進行中のプロジェクトを模型やスタディで紹介しながら、これまで数多くの展覧会の会場構成を手がけてきたトラフらしい“さすが!”の展示手法で、来場者の視点を見事に“ひっくり返して”みせる。


建築もプロダクトも素材もすべて一緒

「視点を変える」方法の1つとして、スケールダウンとスケールアップが挙げられる。もしも自分自身のサイズを自在に縮尺できたなら、この世界はどれほど違って見えるだろうか。トラフはいつもそう考える。

もちろん建築家なら日常的に建築模型を覗き込んで空間をイメージするだろう。しかし鈴野氏は、観葉植物の鉢植えを指してこう言うのだ。「この鉢の縁の上を本当に歩いてみたいと思うんですよ」。

実際に鉢の縁に顔を近づけて植物を“見上げて”みると、可憐な観葉植物が突然生命力の溢れるジャングルに変わる。この体験は確かに楽しい。

そうした具合に、鈴野氏はあらゆるモノの中を覗き込み、小さな人になったつもりで佇んでみるというのだ。オススメはアルミパイプだそうだ。「東急ハンズに行ったら必ず覗きますね。すごくきれいで不思議な世界が広がっているんです」。本会場でもアルミパイプを覗く体験ができるので試してほしい。

▲ 3階の展示室

▲「テンプレート イン クラスカ」の模型。各展示に振られた番号と、配布されるガイドマップを照合しながら見ていく


ギャラリーの3階には、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しいテーブルが展示されている。建築模型や自然の素材、古道具などが、一見無造作に置かれているようだが、実は時系列に沿ってプロジェクトが並んでいる。

2004年の「テンプレート イン クラスカ」に始まり、初期の「港北の住宅」、「空気の器」(かみの工作所)、「コロロデスク」(イチロのイーロ)、「AAスツール」(石巻工房)、「イソップ」店舗、「スヌーピーミュージアム」など。それらの建築模型やプロダクトの間には、クリーム絞りの先端部や、吸音材、養生シート、旅先で見つけたおもちゃや古道具など、素材のスタディから単純に「好き」なものまでところ狭しと散りばめられている。

▲「港北の住宅」の30分の1模型。手前に置かれた巨大な木の実はインスピレーションの1つ

▲「AAスツール」や「gold wedding ring」、加工した木の実など、一緒に並んでいるのが不思議な光景だが、それがトラフの幅の広さを生み出している

▲葛西 薫氏のカレンダーを設立以来使い続けている。毎年ネジを緩めながら増やしているという


「僕らにとって、建築もプロダクトも素材もすべて一緒なんです。その境目ってどこにあるんだろう。建築と同じようにプロダクトにも“敷地”を想定することができる。スケールを大きくすれば、テーブルは屋根になるし、建物にもなっちゃう。古い漏斗は雨水を集めてその下で休むことのできる建築に見えてくるかもしれません。結局、建築かプロダクトかというのは、自分自身のスケールの違いだけではないのかな」(鈴野氏)。

▲「何になるかわからない素材のスタディを常にやっています。事務所には穴を削り取った板みたいなものがたくさんあって、パーティションのイメージになったり、積み重ねれば高層建築に見えてきます」(鈴野氏)

▲ アンティークショップで集めたという古い漏斗

▲「Big T」の50分の1の模型。巨大な農業用倉庫の中に分棟を入れ子に配置した週末住宅


「小さな都市計画」

テーブル上のオブジェの隙間には線路が敷かれ、小さな黄緑色の電車「トラフ号」が周回している。4階では、トラフ号の視点から撮影した映像が流れているのだ。運転手・鈴野氏と車掌の禿氏によるナレーションをはさみながら、建築模型の中に入ったり、コンクリートブロックの穴をぎりぎりで通過したり、“巨大なスヌーピー”の下をくぐったりと、観光列車のようにスリル満点な眺望が次々と現れる。

▲「トラフのふたり」のスタンプ。写真右奥のオブジェからトラフ号は出発する

▲「チープな素材であるコンクリートの型板を、これまで展覧会の会場構成に使ったりしていました。ここから電車が走ってくると、集合住宅のように見えてきませんか」(鈴野氏)

▲4階の映像。映像をWOW inc.、撮影を大木大輔とトラフ、音楽をジェレミー・ダウアー、イラストを中村至男が手がけた

▲ 予告編「トラフ展 インサイド・アウト」
https://www.youtube.com/watch?v=zddbEERFqzc&feature=youtu.be


鈴野氏の友人である音楽家がつくった不思議な雰囲気のBGMに合わせて、電車はのんびりと進む。これは何度見ても楽しい。3階と4階を何度も行き来しながら、スケールの違いを楽しむ来場者が多いようだ。

「それが狙いなんです。このギャラリーの構造が3、4階で分断されているので、それをつなぎたかった。建築の展覧会って図面と模型の展示が多いですよね。でも本当の建築より迫力がないし、あまり面白くないなと思って。フロアを行き来しながら何度も新しい発見をしてもらえるような、今まで見たことのない建築展をつくりたかった」(鈴野氏)。

4階の映像を堪能した後に、もう一度3階のテーブルを俯瞰して眺める。すると今度は、その景色が小さな都市に見えてきて腑に落ちる感じがした。トラフは、身近なものや小さなものからスケールの大きなものへと展開していくデザインを「小さな都市計画」と呼んでいるのだ。

▲ 中庭にも養生シートのカーテンや、防虫ネットの屋根などが展示されている。本展の構成で苦労したのは、「テーブルと映像、2つの展示を同時につくっていくこと」。テーブル上のオブジェの位置を変えると時系列が崩れてしまうため、調整を繰り返したそうだ

▲ 展示はギャラリーの展示空間(3階、4階)だけでなく、同ビル内のショールーム(セラトレーディング、地下1階・1階)やBookshop TOTO(2階)にも及んでいる。全体で100点の展示数に上る

▲ Bookshop TOTO(2階)には「トラフ棚」も


ところで本稿で何度「楽しい」と書いただろうか。そう、楽しいことこそ、トラフの最強の持ち味。彼らの魅力あるクリエイションが凝縮された、必見の展覧会だ。(文・写真/今村玲子)


「トラフ展 インサイド・アウト」

会期 2016年10月15日(土)~12月11日(日)
   11:00~18:00
   ※セラトレーディング東京ショールームの開館時間は異なります。詳細はご確認ください。

休館 月曜・祝日

会場 TOTOギャラリー・間

入場 無料

詳細 http://www.toto.co.jp/gallerma/ex161015/


『トラフ建築設計事務所 インサイド・アウト』
トラフ建築設計事務所・著(TOTO出版 2,200円+税)
本展に併せて作品集『トラフ建築設計事務所 インサイド・アウト』も出版された。「表と裏」をひっくり返すように、少し視点を変えてみることで生み出された42の作品を紹介。作品集のあり方まで考え抜かれた一冊には、トラフの思考プロセスやアイデアの源が表現されている。デザインは中村至男。120×173mm、416ページ、和英併記。



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。

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