連載コラム「クリエイターの想いを尋ねて」   

第17回「“見て楽しく、触って嬉しく、使うほどに愛着が湧くものづくり”——TENT」

16.09.14

「生活に根差したものづくり」というのは、デザイナーであれば誰もが考えていることかもしれない。だが、近年、台頭してきた新しい世代のデザイナーたちがつくり出すものには、より生活に寄り添ったリアリティを感じる。シンプルだが、物としての存在感があって実用性が高い。治田将之氏と青木亮作氏が2011年に結成したクリエイティブユニット、TENTがつくるものもそうだ。

▲ 突っ張り棒のトップメーカー、平安伸銅工業とのコラボレーション製品「DRAW A LINE」。突っ張り棒を見せるインテリアとして、再定義してデザインした。オプションで照明や棚を取り付けることができる

インタビュー・文/浦川愛亜

▲ 本の上に載せて読むことができる、厚さ5mmのアクリル製「BOOK on BOOK」。静岡の工場ZERO MISSIONで、ひとつひとつハンドメイドでつくられている


セルフプロダクトからスタート

TENTのふたりは、それぞれ家電メーカーやデザイン事務所に在籍し、個々にデザイン活動を行っていた。あるプロジェクトで出会い、話をするうちにデザインに対する考えや目指す方向性が同じだと感じた。その後、ともにフリーで活動し始めてから、ユニットを組もうという思いに至ったそうだ。

現在、彼らは依頼を受けたプロダクトデザインの仕事をする傍ら、セルフプロダクト(自社商品)を企画販売し、その梱包や発送、在庫管理に至るまで、すべてを自分たちで行うというスタイルを貫いている。そのきっかけは、TENTとして活動を始めた2011年当時、展示会で発表したオリジナルプロダクトをメーカーと製品化に向けて進めていたが頓挫してしまったため、「いっそ自分たちで製品化してしまおう」と考えたからだ。

私がTENTを知ったのは、2013年秋に行われた展示会「EXTRA PREVIEW」だった。なかでも最初のセルフプロダクト「BOOK on BOOK」を見たときに、並々ならぬ気迫を感じ、惹き付けられた。それ以来、彼らのデザインに注目している。

▲ スマートフォンやコンピュータのモニターの汚れを拭き取る、黒板消しの形をした「Display Cleaner」。木製部分は、静岡の木工家具工房「FACTORY DEN」の神野克昭氏が手作業で製作している


ゼロからブランドを立ち上げる

彼らはめきめきと活躍の場を広げている。2015年に発売されたデジタルデバイスシリーズ「NuAns(ニュアンス)」では、ブランドの立ち上げから関わり、製品のみならず、カタログ、パッケージ、ウェブといった一連のデザインを手がけたことで、自らの大きな自信となり、メディアやさまざまな企業から注目されたことで、彼らの見る世界が大きく広がったという。

それはスマートフォンアクセサリーを手がけるトリニティのオリジナルブランド「Simplism」とのコラボレーション製品である。デジタルデバイスがオフィスだけでなく、家の中やカフェといった身近な場所で使用されるようになったことから、木製のテーブル、ファブリックのベッドやソファの上といった、さまざまな空間やシーンに馴染む製品として考えた。

すべての製品において未使用時には金属端子が露出しない構造を開発し、素材には温かみのあるフェルトや木を採用した。「家の中を見渡せば、木は住宅や店舗の建材のほか家具などにも使われているものので、生活道具にも採用するのは僕らにとって自然な考えでした」と青木氏は言う。だが、熱を発する電子機器への使用に際しては、防水や難燃といった課題をクリアしなければならず、その部分ではひじょうに苦心したそうだ。

▲「NuAns(ニュアンス)」シリーズ。モバイルバッテリーやケーブルホルダー、iPhoneやiPadを置いておくマット、Lightningケーブル、LED照明などがある


コンセプトについて熟考する

ものづくりを行う際にいちばん大事にしているのは、デザインコンセプトだ。どのような環境で、どのような用途で使うものかなど、いろいろな要素を書き出していって、その中から絞り込んでコンセプトを固めていく。

「プロジェクトを進めていくなかで、『僕らは何をつくろうとしていたんだっけ?』と、何度もデザインコンセプトに立ち戻って確認するようにしています」と青木氏。

途中で問題が生じたときは、躊躇することなく一旦、すべてを停止する。そして、問題が解決できたら、また前に進んでいくというように、曖昧な状態のまま突き進むことなく、ものづくりのプロセスを丁寧に歩んでいくことを大切にしている。

▲「NuAns(ニュアンス)」シリーズのモックアップ。綺麗なモックをつくるのではなく、思いついた瞬間から、とにかく早くたくさんのモックをつくるという


とにかく立体物をつくってみる

ものづくりを行うなかで、もう1つ彼らが大事にしていることがある。それは試作品をつくって、日常の生活シーンの中に置いて検討することだ。そこにも彼らのデザインにリアリティを感じるヒントが隠されているようだ。

思いついたら、スケッチを描くよりも、まずペーパーモックをつくってみる。それを自宅に持ち帰っていろいろなところに置いてみて、色や素材、手に持ったときのサイズ感、ディテールなど、空間との調和を見ながら検証する。

それからスケッチを描いて、またモックをつくって、ということを繰り返した後、3Dプリンターでつくったり、模型会社に依頼してより精密なモックをつくったり、さらに量産試作を実際に自分で使ってみて、細かな修正を何度も繰り返しながら、立体物での検討を入念に重ねていくそうだ。

▲ 玄関で出迎えてくれる、人感センサー内蔵のLED照明「OKAERI ROBOT」。木製部分は、同じくFACTORY DENの神野氏が製作。家具によく使用されるブナとウォルナットの2種類がある


デザインは、もっと楽しいもの

数年前から、毎夏、事務所にインターンの学生の受け入れを始めたが、今の学生たちにもどかしさを感じるという治田氏。

「学校で出される課題の期間が長いせいからか、アイデアスケッチを描く時間が長すぎるように思うんです。なかなかいい案が出ず、何枚も描きながらずっと悩んでいる。もっと初期の段階で立体物をつくってしまえばいいのに、と思うことがあります。実際につくってみたほうが、いい部分とだめな部分の判断がつきやすい。そのほうがゴールに到達するまでの時間も速くなりますし、何より実際に手を動かしてつくるものづくりのほうが、楽しいんじゃないかなと思うんです」。

「若い学生たちには、『もっと楽しんでいいんだよ』と言ってあげたい」と青木氏も言う。「自分がほしいと思ったものを自分の手でつくれるなんて、こんなに楽しい仕事はないと思うんです。だから、そんなに悩まずに、デザインすることをもっと楽しんだらいいのに、と思いますね」。

もちろん、ものづくりの過程では、悩んだり、苦しんだり、ときには七転八倒することもある。それでも「ものづくりの工程すべてが楽しい」「毎日が楽しい」と口を揃えて言う。けれども、仕事をしすぎないように「徹夜はしない」「土日は休む」というルールを設け、家族と過ごす時間を大切にしている。自分たちがきちんと「生活」していないと、生活道具はつくり出せないという考えからだ。

▲ 事務所にて、治田氏(左)と青木氏。家具は自分たちで製作した


人懐っこいデザインを目指して

TENTの掲げるコンセプトは、「見て楽しく、触って嬉しく、使うほどに愛着が湧くものづくり」だ。

治田氏は「デザインのアイデアや新鮮さは、パッと見た瞬間に伝わるもので、時間としてはとても短いもの。それよりも、毎日、使っていくうちにだんだん愛着が湧いていくもの、じっくり時間をかけて伝わっていくものが、長く使ってもらえる品質につながるのかなと思います。胸を張って本音の部分で自分たちがほしいと思う、いいものだから自分たちも本当に使いたいと思うものをつくっていきたい」と言う。

青木氏は、「同業者でも思わずうなってしまうような、細部のつくり込みにはもちろんこだわりますが、難しくて高尚なものではなくて、子どもにも手に取ってもらえるような、遊び心を取り入れた人懐っこいデザインを目指したい」と語った。

近年、新興企業の台頭や老舗企業の代替わりが進むなかで、新しい感性を持った若い経営者とタッグを組むプロジェクトが増えていることも、彼らの可能性を広げる後押しになっているようだ。だが、そうしたクライアントワークの一方で、現在はしばらくつくっていなかったセルフプロダクトの企画も思案している最中だという。結成からまだ5年。今後のますますの活躍が期待される。


TENT/治田将之と青木亮作が独立後、2011年に設立。プロダクトデザイン、ブランド構築、コンセプト立案、商品企画、パッケージデザイン、カタログデザイン、ウェブデザイン、アプリUIデザイン、展示空間プロデュース、コンサルティング、自社商品の企画・製造・販売・広報なども行う。HPには自社製品のオンラインショップがあり、開発秘話なども紹介されている。
http://tent1000.com

治田将之/1971年神奈川県生まれ。多摩美術大学を卒業後、デザイン事務所へ勤務。さまざまなメーカーのプロダクトデザインや先行開発などを担当する。その後、生活雑貨メーカー「マーナ」勤務を経て、2001年にフリーランスとして家電、インテリア用品を中心にプロダクト、パッケージ、カタログまで多岐にわたるデザインを手がけた。

青木亮作 /1979年愛知県生まれ。名古屋市立大学を卒業後、オリンパスイメージングに就職し、医療分野、ICレコーダー、デジタルカメラのプロダクトデザイン業務を経て、新しい商品をゼロから企画するチームをスタート。ソニーに転職し、PCおよび周辺機器のプロダクトデザインを行った。


平安伸銅工業 http://www.heianshindo.co.jp

トリニティ http://trinity.jp

Simplism http://simplism.jp

FACTORY DEN http://factory-den.com

ZEROMISSION http://zeromission.jp



浦川愛亜/エディター&ライター。岡山県生まれ。日本大学藝術学部文芸学科ジャーナリズム専攻卒。『ECIFFO』『AXIS』編集部を経て、渡伊。帰国後、『Martha Stewart』日本版編集部を経て、2003年よりフリーに。デザイン分野を中心に雑誌、書籍、ウェブメディアで活動。書籍編集に『長大作 84歳現役デザイナー』(長 大作 著、ラトルズ刊)、『あそぶ、つくる、くらす デザイナーを辞めて彫刻家になった』(五十嵐威暢 著、ラトルズ刊)などがある。

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