AXISフォント ユーザーインタビュー   

第1回 ビジネスデザイナー 濱口秀司氏 「プレゼンを絶対に成功させる、フォントの使い方」

16.05.16

米国のデザインエージェンシー、Ziba Designのフェローであり、近年自ら立ち上げた実験会社、monogoto (米国・ポートランド)の代表を務めるビジネスデザイナーの濱口秀司氏。企業の戦略レベルから商品開発まであらゆるレベルのプロジェクトを手がける濱口氏は「プレゼン資料にAXISフォントを使っている」という。その背景と理由、さらに「百発百中で成功させる」と言われるプレゼンの秘訣も聞いた。

最近はどのようなプロジェクトを手がけられていますか。

日本って、アメリカなど海外のものをありがたがる傾向がありますよね。僕はそれが嫌で、日本で成功したものを逆にアメリカに持っていこうと思っているんです。だから今、monogotoという会社は日本の企業にフォーカスしてます。日本で面白い成功事例をつくって、アメリカ人に「日本はすごい」 と言わせたい。僕は日本人のイノベーション力を信じているのです。
 プロジェクトは基本的に誰もが「絶対できないだろう」というようなプロジェクトしかやらない方針です。例えば、業界最下位で価格戦略も失敗して「もうこれ以上は無理」というような案件。あるいは30年間「生産性は絶対に上がらない」と言われ続けていた工場を2週間で倍つくれるようにするとか。そういうものばかりを引き受けています。競合に米国企業が入っているケースも選ぶようにしています。プロジェクトの数は多くバラエティに富んでいます。デジタル製品、家庭用品、サービス、建設、まちづくり、工場の業務改革、そうかと思えば積み木をつくったり。ビジネスコンサルタントがやるような戦略レベルのプロジェクトで新しいプラットフォームを考えたり、そのポートフォリオから新商品をつくる必要があればつくったりと、ありとあらゆる仕事をやっています。

フォントを選ぶときに重視した「細さ」と「濃淡」

濱口さんはビジネスの現場で使うプレゼン資料にAXISフォントを使用されていると聞きました。その背景について教えてもらえますか。

実はすごく細いフォントが欲しかったんです。それまで英語では「Helvetica」、日本語ではゴシック系を使っていたんですが、もっと細いのが欲しくて。そうしたらフォントに詳しい仕事仲間からAXISフォントを勧められたんです。まず細いフォントが欲しかったということですね。

それからAXISフォントは、一文字一文字のエリアにおける濃淡(グレートーン)の均一性が高い。これがすごく重要です。和文に比べ、欧文のアルファベットには強い濃淡がありません。だから資料をぱっと見たときに、英語で3行書いてあっても、ブロック(かたまり)、つまりオブジェクトに見せることができるんです。ところが和文の文字は濃淡があるためブロックに見えません。ブロックではなく文字に見えてしまうと、プレゼンのときにやりにくいことがあるんです。そのためできるだけ濃淡の少ないフォントを求めていました。

なぜ、文字がブロックに見えないといけないのですか。

われわれがプレゼンで何をやっているかというと、僕(主体者)がある目的の下に何かを与えて、その一方でオーディエンスすなわちクライアントから質問や反応を受け取っている。プレゼンというと紙のことだと思っている人がたくさんいますが、それは間違っています。プレゼンはインタラクション、コミュニケーションです。僕が伝えたい情報をどうやってこの人に与えるか。一言でいうと「コントロール」です。相手にきちんとものを伝えるためにコントロールしないといけない。それがプレゼンの本質です。

ここにスライドがあるとします。言いたいことがいっぱいあるから、紙のなかは情報過多になりがちです。でもプレゼンは限られた時間のなか、みんなが別の目的を持ってインタラクションしている状態です。だから読み飛ばす。読み切れないからつまみ食いし始める。するとどこを読まれているかわからない。プレゼンではそれをコントロールする術が必要です。1つの画面が現れたときに、こちらが何も言わなくてもどこに視線が行って、次にどこに視線が行って、と自然に読むことを促したい。100人いたら100人とも同じ順番で読むようにコントロールしたいんです。そうでなければ、限られた時間のなかで伝えたいことが正しく伝わらない。

グラフにたくさんの色をつける人もいますが、人間にとって色の認識は難しい。基本的には色を抑えて、形で視線のバランスをとったほうがいい。つまり文字のサイズを変えるということです。大きく見える文字は重要、小さければ非重要という具合に、フォントのサイズでコントロールしていくのが理想です。その際、ウェイト(細さ、太さ)の段階がたくさんあることが重要。ウェイトの段階が少ないと視線のコントロールが難しくなります。だからといって複数のフォントを使ってしまうと、違和感があるためオーディエンスの処理能力が落ちます。文字で情報の階層グラデーションをつくる時、フォントサイズとウェイトを使いこなせると、オーディエンスの視線と理解をコントロールすることができるのです。

欧文のアルファベットはブロック感をつくりやすいので、レイアウトしたときにオブジェクトとして伝えることが可能です。困るのはそこに和文を入れた瞬間、ブロック感が薄れて文字になってしまう。すると読ませたい順番が破綻するのです。和文で書いてもブロックのように見せるためには、一文字の中での濃淡が均一化されていなければならない。アクシスフォントはそれが均一化されているので、サイズを大きくしていって逆にウェイトを落とすと文字列をブロック化することができます。「重要ではあるが、細いから無視してもいい」と構成できるので、オーディエンスはひとまずバーッと読み進めて、最後にそこを読むといった流れに調整できます。

AXISフォント Basic EL(エクストラライト)

まさにアクシスフォントの設計思想が、エリアの濃淡(グレートーン)を均一にするということだったんです。

2つの違ったフォントで同じ日本語の文章を書いて比較してみてください。濃淡としては同じように見える文章も、意味を読みとれないように左右上下反転させて比較すると、濃淡の違いがはっきりわかる。アクシスフォントは他のフォントに比べて圧倒的に濃淡が見えにくいのです。

秀逸だと思いますね。欧文書体に匹敵するくらい均一化するので、レイアウトしたときにブロックが並んでいるようにしか見えない。プレゼンは0.01秒の勝負の積み重ねなので、1、2、3とリズミカルにブロックを認識していくのと、違和感を覚えて一瞬別のところに目がいくのでは結果が全く変わってくる。あるクライアントが米粒に経を書くようなプレゼンをして大失敗して、僕がつくり直して3日後にもう1度同じ内容のプレゼンをしたら通ったということがあります。そのくらい視線のコントロールは大切です。

AXISフォント Basic L(上)とMS Pゴシックによる『我輩は猫である』冒頭文を左右反転。


さらに上下反転。

絶対にやってはいけないプレゼン、成功するプレゼン

逆に、まずいプレゼンなどはありますか。

例えば資料のエフェクトです。字がビヨーンとか炎がボーンとか、使いたくて仕方ないのはわかるけれど絶対やってはいけない。クリックした瞬間に画面がビヨヨーンとなった、それはプレゼンの主体者がコントロールを放棄したことになるんです。「僕ではなく、素敵なマシンが何かをやっています」という主張です。この後でオーディエンスの意識を取り戻すのは非常に大変です。

それから映像を使うときも注意が必要です。カッコいいことを言っておいてから「今から映像を流します」とクリックする。これも明らかに主体が僕から画面に移っているわけですが、最もダメなケースはプレゼンテーターが立ったまま映像をボーっと見ていることです。これは主従関係が完全に逆になっている。映像が始まったら、「正式に主体を画面に渡した」ことを示すために自分も座ってオーディエンスの一部になればいい。そして終わった瞬間に立ち上がってクリッカーを持てば、主従関係が元に戻ったことをアピールできます。

プレゼンはそういうところまでよく考えないといけない。何もカッコいいプレゼンをしたいわけではない。僕の場合はこれが必然なんです。わずかでもミスをしたために、プロジェクトに投資がされなかったり、既に何億円も使いながらそれ以上進まなくなるケースがあるんです。それは絶対に避けたい。だから僕は偏執的なまでにプレゼンをコントロールしようとします。

ご自身以外で「これはすごい」というようなプレゼンをする人はいますか。

きれいなプレゼンはありますが、設計されたプレゼンは少ないですね。みんな誰かのプレゼンを真似しているだけだから。最近はウェブという最強のツールでいろいろな美しいものを見られますから。重要なのは、なぜそれを美しいと思うかを解析することです。ただスタイルを真似るのは浅い。真似するなら「プレゼンはコミュニケーションである」「プレゼンは一期一会である」ということを真似しなければ。そしてそのためには徹夜をしてでも、1ミリでも0.1秒でもスムーズに見せ、相手に確実に内容を伝えるために工夫するという姿勢を真似しなければなりません。

最後に、プレゼンを成功させるポイントを教えてもらえますか。

1つ目は「パッション」。相手は人間ですから、パッションがなければ終わりです。画面に壺が一個映っているだけでも「とにかく私はこのプロジェクトをやりたい」と伝えることができたら通る可能性があります。絶対にパッションを忘れてはいけません。

2つ目は「ピラミッド型で話す」。相手がエグゼクティブであるほどせっかちなので、早く結論を知りたいし、具体論を求めます。具体的であると同時に本質をついていないとダメで、それらを一気に投げ込まないと彼らは我慢できない。ですからいいプレゼンの形とは遠くから見るとピラミッドのような三角形をしています。まず頂点に言いたいことがあって、それを補足していくように降りていくべきです。地球には重力があるので下から石を積んでピラミッドをつくりますが、僕らがつくるプレゼンに重力なんかありません。だったら頂点からつくればいいのに、なぜかプレゼンの世界には違う重力が働いているんですよ、「結論(=簡単なこと)を先にいうとアホに見えるんじゃないか重力」が(笑)。あるいは「もうちょっと複雑に言っておくほうが賢く見える重力」とかね。でも役員プレゼンでは、市場だの戦術だの長々と説明する巨大な台形よりも、小さな頂上の三角形のほうが通ります。

3つ目は「階段状でしゃべる」。これは合意をつくるプロセスです。プレゼンのオープニングはフラットなところで合意をつくらないといけません。最初に「今日は○月○日です」と言います。みんなも心の中で「ほう、確かにそうだな」と思う。これは合意しているんです。「今日のプレゼンは1月と2月に話した内容の続きです」「プロジェクトメンバーは10人います」と言って「そんなの嘘だ」と思う人はいません。これはプレゼンの概要を紹介しているように見せかけて、実は合意のプロセスをつくっているんです。この後に、彼らが今まで聞いたことのないような新しい情報をバンバン放り込むので、前段階で「こいつを信じていいのか」と思われていると拒否されてしまいます。

ただ合意ばかりだと言いたいことが言えないので「実はここで大切なポイントがあります」とステップを一段上がります。その後すぐに「大丈夫。理由は3つあるので安心してください」とまた合意プロセスに入ります。そうやってオーディエンスと一緒に階段を1段ずつ登っていくんです。合意は癖になりますから、3段くらい一緒に登ればあとは自力で登っていってくれるようになります。

濱口秀司/monogoto CEO, Ziba Executive Fellow。京都大学卒業後、松下電工(現パナソニッック)に入社。研究開発や全社戦略投資案件の意思決定分析担当などを経て、1998年に米国のデザインコンサルティング会社Zibaに参画。USBフラッシュメモリなど様々なコンセプトづくりをリード。パナソニック電工(株)新事業企画部長、パナソニック電工米国研究所(株)の上席副社長、米国のベンチャー企業のCOOなどを歴任。 2009年Zibaにリジョイン。13年Zibaのエグゼクティブフェローを務めながら、自身の実験会社「monogoto」をポートランドに立ち上げ、ビジネスデザイン分野にフォーカスした活動を行っている。ドイツRedDotデザイン賞審査員。 http://mono-goto.com

AXISフォントは和文フォントとしてはじめて、EL(エキストラライト)、UL(ウルトラライト)、というウェイト(文字の細さ)を展開しました。それ以前は、和文ではLまでしかないため、欧文は細いのに和文だけ太いということになり、濱口さんが「文字列がブロックに見えない」とおっしゃったようなことになっていました。アップルが「Macbook Air」を発売した際、「世界でいちばん薄いコンピュータの広告には、世界でいちばん細い文字を使いたい」とAXISフォントを採用したこともあります。

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