シンガポールデザインレポート   

市内で出会ったシンガポールデザインの“種”

16.05.09

シンガポールデザインウィークの最後のレポートでは、シンガポール市内で見つけた“デザインの種”をランダムに紹介してみたい。


■ナショナルギャラリーシンガポール
https://www.nationalgallery.sg

2015年11月にオープンした、シンガポールおよび東南アジア最大の公立美術館「ナショナルギャラリーシンガポール」。旧シティホールと最高裁判所という2つの歴史的建築を統合させたリノベーションが素晴らしく、「必ず訪れるべきスポット」としてオススメしたい(デザインを手がけたのはフランスの建築事務所、Studio Milou)。広大な館内ではシンガポールの近代美術を集めた常設展のほか、多数の企画展が催され、ミュージアムショップやレストランまで含めると、とても1日では回りきれない。時間に余裕をもって訪れたい。


コロニアル様式の柱やタイルなどの建築意匠が美しく残されており、それ自体が貴重な“作品”となっている。


アトリウムの上にはガラスの屋根がかかり、そこは屋上庭園のNg Ten Fong Roof Garden Garellyとして機能している。同じフロアにあるレストランからもこの庭園を眺めることができる。


かつての収監所も公開され、来場者の撮影スポットとなっている。


シンガポールの建築事務所LEKKER がデザインした館内のベンチ。現代のデザインが館内にちらばる。


Foreign Policy Design Groupがキュレーションするミュージアムショップ「GALLERY & Co.」。現地デザイナーとのコラボレーションによるユニークなコレクション「Co. LABBS」もまた“作品“だ。http://www.galleryand.co


テキスタイルデザイナーのMATTERは、古代中国からアジア全域に広がっていったブロックプリントを紹介するとともに、オリジナルの型でつくったミュージアム限定ストールを販売。
http://matterprints.com


「GALLERY & Co.」には、若手シンガポールデザイナーらによるさまざまなアイテムや、書籍などが充実している。


アジアトップクラスのパティシエと称されるJANIS WONG(4月15日に新宿NEWoManにデザートバーがオープンしたばかり)もミュージアムショップに出店。http://www.janicewong.jp


ナショナルギャラリーシンガポールのバーから眺めるマリーナ・ベイ。夜景はもちろん、夜間に行われる光のショーも楽しめる。


■シンガポールトップの建築事務所「WOHA」
http://www.woha.net

WOHAは、Wong Mun Summ(62年生まれ、右)とRichard Hassell(66年生まれ、左)が1994年に設立した建築事務所。シンガポールの公共建築やマンション、大学、ホテル、地下鉄駅などのプロジェクトを数多く手がけており、ナショナルデザインミュージアムの常設展示でも、その功績が紹介されている。国外ではインドやインドネシア、タイ、台湾といった主にアジアでプロジェクトが進行中だ。現在建築士、インテリアデザイナーなど約80名のスタッフを抱える。


ビルを一棟リノベーションしたオフィス内部。フロアを貫く吹き抜けにジャングルのような植栽が施してある。雨水を利用するためメンテナンスは不要だという。


設立者ふたりのオフィスにはたくさんの植木鉢が。植物が大好きで自ら育てながら研究し、その知識をプロジェクトの植栽や緑化に生かしているという。


事務所を案内してくれたChan Ee Munはシンガポール国立大学のシニアアソシエイトも務める。背後にかかっているのは、アーティストでもあるWong Mun Summが描いた絵画。事務所には美術品や骨董品などがあちこちに置かれていた。


スタッフのフロアから見えるのはWOHAが手がけたホテル「パークロイヤル・ピッカリング」(2013年完成)。シンガポールという過密都市で培われた高層ビルの設計は彼らの得意とするところ。熱帯気候の特性を生かしたエネルギー循環型のシステムは世界から高く評価され、このプロジェクトだけで現在までに17以上の賞を受賞している。


ジャングルのような植栽、隣接する公園の地層がそのまま持ち上げられたような意匠が印象的なホテルは、緑豊かなこのエリアのランドマーク。「単に高層建築という形式のなかに植栽を持ち込むのではなく、そのエコシステムをいかに建築と一体化させ、循環・増殖させていくか」がテーマとなった。


パークロイヤル・ピッカリングのエントランス。通路や壁面のクレバス(裂け目)に水の流れを引き込み、ダイナミックな緑化を実現している。


パークロイヤル・ピッカリング1階のレストラン。インテリアもWOHAが手がけている。都市と自然が共存するムードを持つ洗練されたインテリアは、ヨーロッパでもアジアでもない新しい世界観を感じさせる。


■ナショナルデザインセンター
http://www.designsingapore.org

美術大学や図書館があり、若い学生らで賑わうBras Basha – Bugis地区にある「ナショナルデザインセンター」。もともと修道院だった建物に美術や京劇の団体が入居した後、2011年にSCDA Architectsによってデザインセンターとしてリノベーションされた。


開放的なアトリウムはギャラリースペースになっており、シンガポールデザインウィーク期間中はデザインマーケットなどが開催された。


2階では、シンガポールデザインの50年を振り返る常設展「FIFITY YEARS OF SINGAPORE DESIGN」を開催。http://www.designsingapore.org/FIFTY


シンガポールでデザインの歴史は始まったばかり。40代のデザイナーですら“巨匠”であり“指導者”である。96年に「SQUEEZE DESIGN」を設立したPATRICK CHIAもそのひとりだ。工場のないシンガポールでものをつくるには、まず自分の手を動かすしかないと、初期の作品「The Sqoosh」は18カ月かけて10脚をつくったという。FRPを使ったのは、自分の手だけで自由に形をつくれるから。パイオニアの苦労が忍ばれるエピソードである。


シンガポールのデザイナーが集まって自らのアイデンティティを模索しながらものづくりを行ったプロジェクト「SINGAPORE SOUVENIRS」(2009年)と「THE SINGAPORE ICONS STUDIO PROJECT」(13年)は、シンガポールデザインを世界的に知らしめた。HANS TANの「Spotted Nyonya」シリーズは、中華系移民が育んだプラナカン文化を参照している。


シンガポール、スペイン、アルゼンチンを拠点に活躍の場を広げているデザインユニットOUTOFSTOCKの作品「BLACK FOREST FOR LIGNE ROSET」(2010年)。「メゾン・エ・オブジェ・アジア」でもフィールドワークに基づく完成度の高いラグコレクションを発表した。このコレクションの詳細は、5月1日発売のAXIS181号をご覧ください。



シンガポールデザインウィークには同国だけでなく近隣の国々からも元気なデザイナーが集まりはじめており、早晩ここからアジアデザインの新たな潮流が生まれる予感がする。そして、それを力強くサポートするシンガポール政府などの取り組みについては、5月1日発売のAXIS181号をぜひご覧になっていただきたい。

4月のミラノサローネでも、シンガポールをはじめとしたアジアのデザイナーがあちこちで頭角を現していた。Industry +を立ち上げたプロデューサーの中牟田洋一氏が、ミラノでキュレーションした「alamak ! 」展(トリエンナーレデザイン美術館で9月12日まで。http://alamakproject.com)は、まさしくその代表例だろう。「もはやアジアを軽視することはできない」という声が多数あったと聞く。これまで欧米主導だったデザインの世界で、アジアへの注目が増しているのは間違いないだろう。(文・写真/今村玲子)

©Alessandro Brasile



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。

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