連載コラム「x-DESIGN/ 未来をプロトタイピングするために」   

vol.1 山中俊治x中西泰人「柔軟な産業のなかのデザイナー」

13.03.29

『x‐DESIGN―未来をプロトタイピングするために』(慶應義塾出版会)の著者による連載第1弾の今回は、山中俊治教授と中西泰人准教授。プロダクトデザイナーでもある山中俊治と、コンピュータサイエンスの領域にも精通する中西泰人は、実は東京大学時代に教師と生徒の関係だったこともある。産業構造の変化に伴いデザイナーの役割はどう進んでいくのか。

産業構造のストーリーが変わる

山中俊治(以下、山中)
僕が東大で教え始めて1年目のとき、実は中西先生は大学三年生で授業を履修してくれていましたよね。そのときの課題で中西さんがO-productについて書いてくれた内容というのが、「機能美が機能を積み重ねていった結果、現れる美だとすると、このカメラに機能美はない。しかしこのカメラには人々が機能美だと思うところの機械美が結晶化されている」というものだった。この学生すごいな、僕はこんなに上手にO-productのことを語ったことがないな、と思いました(笑)。それ以来しばらくの間、O-productのことを説明するときに使わせてもらっていて、これは東大の学生が書いた言葉です、と言っていたんです。そのとき覚えた名前が中西さんだったと思います。

▲「O-product」(Photo by Yukio Shimizu)

中西泰人(以下、中西)
だいぶ昔のことなのであまりよく覚えていないのですが、嬉しいエピソードです(笑)。
原稿を拝読して山中先生は、インダストリアルデザインの抱えている問題に丹念に向き合って、SFCでいろいろな角度からアプローチされているのだなと感じましたが、これは学生時代に僕がレポートを書いたときにもあった問題で、しかもまだ解決されてない問題ですよね。例えば、プロトタイピングの話。3Dプリンタは田中浩也さんのようなソーシャルファブリケーションの方向もあると思うのですが、大きな組織の中でモノを設計している人にとっても、ラピッドにモノをつくるためのツールとして有効でしょう。フォードがデザイナー全員に1台ずつ3Dプリンタを持たせたということがありましたが、まさしくそういうことだと思います。

山中
インダストリアルデザインの抱えている問題というのは、20世紀以来の産業界が抱えている問題そのものだなという意識がありますが、ここにきて解決されそうな気がしてきています。『x-DESIGN』の中でもSFCの在り方という話はそういう意味でもしているし、たぶんSFCの創業理念もそこにある。製品をつくるプロセスをさまざまな職能に分解して企業の中でシステマティックに協業すれば、最適なものの大量生産が可能となるというストーリーで20世紀産業は動いてきた。しかし、そうしたストーリーそのものに無理があるようだということと、SFCのマルチディシプリナリという方法は似た思想なのではないかと。そこがここでデザインやる意味かなと思う。

「波に乗る」というスキル

山中
中西先生と共通していると思うことに「発想法」をど真ん中に置きたいということがあるんですが、これはSFCの基本テーマの1つでもありますよね。僕自身、デザイナーとしての仕事では頻繁にアイデアを練ることをしますが、新しいものをデザインするときにはまず、必要なことの元を辿って勉強する。例えば携帯電話のデザインをするときには、携帯電話のエンジニアとまともに話せるだけの知識を拾い集める。それをしないとモノはできない。
これはすごくハードルの高いことでもあるから、教えても学生が「無理でした」で終わってしまう可能性もあるとSFCに来た当初は思ったんです。でも実際に、活躍し始めている卒業生たち見ていると、決してそれが高いレベルでなくても、そういう柔軟さを持っていれば生きていけることを見せてくれている。そして、それを時代は結構受け入れているんだなと思うんです。かつてはエンジニアと対等に話すには、にわか勉強でも対等以上じゃなきゃいけないというハードルの高い話だったんですが、いまはそこまで行ってなくてもやれてしまう。それはむしろ時代の要請なんじゃないかと思っているんです。

中西
これからの時代を拓くデザイナーの在り方を考えたときに、新しい知識を短期間で習得するスキルはすごく重要ですね。インタラクションデザインやメディアアート、ウェブみたいに、これまでにないジャンルが立ち上がってくるときって「波」がありますよね。ちょっと前の人たちはCG、その次の世代の人たちは、インタラクティブなウェブ。この前はiPhoneアプリの波が来て、面白いことをやって稼でいた。そういった波が来る瞬間をキャッチできれば、うまくいくのだと思う。逆にキャッチに乗り遅れた瞬間、そのモデルは成り立たなくなる。

山中
それはすごくそう思う。ただし、「なんかいまiPhoneアプリで食えるらしいよ」って聞いてから勉強を始めるのでは駄目。どんな波が来ても乗れるくらいの学習能力とアイデアメイキング能力があれば大丈夫っていう話ですね。

新しい産業構造の中のデザイナー

山中
昔のモノづくりは、エンジニアが方針を決めて大量につくって宣伝して、それに合わせた社会を組み立てるという方法だった。でもいまは変わってきていて、例えば、ネットゲームなどをつくっている会社は、研究開発に全然投資をしていないと言われます。でも彼らの研究開発とは市場投入することなんじゃないかなと僕には思えてきたんですね。従来のように研究開発費をたっぷりかけた商品をどーんと世の中に出すのでは採算が合わないので、思いついたらすぐにリリースして、ユーザーの反応を見ながら改良していく。そういうスタイルだから研究費として計上されないんじゃないかと。僕たちの義足プロジェクトは産業としてはまるで成り立っていないけれども、ユーザーと密接に結びついて開発していく、というプロジェクトのやり方は実は先駆的なのではないかと思っている。

▲開発した義足とウエアで疾走する高桑早生選手(Photo by Akito Goto)

中西
「β版だけどとりあえず使ってね」と言って渡して、不具合があったら「ごめんね」と言って直せる (笑)。 特に新しいテクノロジーほど世の中に出してみないと使われ方がわからないので、ソフトウェアの世界のように素早くリリースして、ユーザーからのフィードバックを得る、というサイクルがより重要になりますね。
洋服や椅子等クラフトに近いところでは、自分で考える、つくる、使う、というサイクルを回している人たちもいます。3Dプリンタで家を建てるプロジェクトなどができているので、自分で設計して、つくって、住む、という人もたぶん出てくるでしょう。環が大きいか小さいかこそあれ、サイクルの在り方は多様化していくと思います。

山中
設計者もデザイナーも大量生産とともに職能として登場したけれど、「ただし建築家は除く」なんだよね。建築家だけは設計者でありデザイナーとして、早々と成立している。別のビジネスモデルだからこそ、これからも生き残るのかもしれない。カスタマイズされたローカルな場所のためにたった1つしか設計しない建築家という職業は、プロジェクトが大きいから成り立っている。それがあらゆるモノに至るというのが未来だというふうに僕には見える。まさに住宅建築家に近いんですが、個人サービスとしてユーザーの話を聞いて、アイデアを提供するというスタイルのデザイナーが、あらゆるプロダクトに存在しうる。そこがSFCからデザイナーが生まれる可能性だと考えています。未来の話ですけれどね。

中西
そうなると、メンテナンスで食べていく必要がありますね。コミュニケーション能力が必要になってくる。大切なのは人間性というか、いいやつでなければいけないというか。教育しづらいですね(笑)。

*さらに詳しい内容については、x-DESIGNのこれまでの研究活動と所属する10名の教員それぞれの思想的背景をまとめた書籍『x‐DESIGN―未来をプロトタイピングするために』(慶應義塾出版会)をご覧ください。

*第二回に続きます。

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