展覧会   

ICC「三上晴子 欲望のコード」展、レポート

11.11.25

三上晴子は、1984年から情報社会と身体をテーマに大規模なインスタレーションを制作するアーティスト。95年以降は知覚によるインターフェースを使ったインタラクティブな作品を発表している。


▲会場風景。写真はすべて、提供:山口情報芸術センター [YCAM] 撮影:丸尾隆一(YCAM)

本展は、2010年に山口情報芸術センター [YCAM]で委嘱制作し、公開されたインスタレーションの新バージョンを展示するもので、デバイスの動きやプログラムに細かい変更を加えている。


▲「蠢く壁面」の一部

作品は3つの“構成”によって展開される。会場の手前から、巨大な壁面に90基のLED照明と小型カメラが設置される「蠢く壁面」、会場中央の天井から吊られた6台のビデオカメラとプロジェクターによる「多視点を持った触覚的サーチアーム」、そしていちばん奥にある昆虫の複眼のように61個の六角形(個眼)が集まった巨大な円形スクリーン「巡視する複眼スクリーン」から成る。


▲「多視点を持った触覚的サーチアーム」の一部

最後のスクリーン以外は、どちらもセンサー技術を使って鑑賞者の動きをとらえ、その様子を映像として記録している。会場内の映像に加えて、世界各地の公共空間にある監視カメラの映像などによって三上が構築したデータベース「欲望のコード」からの映像が複雑に組み合わされて最後の61個から成るスクリーンに映し出されるという仕組みだ。


▲「巡視する複眼スクリーン」

また、会場内の数カ所に超指向性マイクを設置し、インスタレーション空間内で発生する話し声や物音、作品の機械音などを収集。これも三上が設定したプログラムによって、3つの“構成”の状態に基づき、過去の音声を呼び出して音響空間をつくり出している。こうして、センシングや映像、音響といった技術によって鑑賞者自身が情報化・断片化され、作品の一部として空間に投影されるのだ。

ここでは鑑賞者は“被”鑑賞者でもある。90個のLED照明がいっせいにカシャカシャと昆虫のような音をたてながら自分(鑑賞者)の方向を向いたり、アームの先に取り付けられたビデオカメラに執拗に追跡されるという体験は、常に誰かに監視されているという気持ち悪さを感じさせる。しかもLEDやビデオカメラにはまるで意志や欲望があるかのように、一部の鑑賞者を時折ズームアップしてみたり、飽きれば追跡をやめる、といった生き物のような変則的な動きをし、さらに鑑賞者の不安感を煽るのだ。


▲「巡視する複眼スクリーン」の一部

ところが、センサーの追跡から完全に逃れたいかというと、今度は不思議な感覚が頭をもたげてくる。自ら作品に参加しなければ、スクリーンに自分の姿が投影されたり、音響に自分の声が含まれることはない。傍観者ではつまらない、という気持ちになってくる。自分の姿がスクリーンに映し出される瞬間を待つことの悦び。自分自身に関する情報が収集され、その一部が使われ、消費されるということ。どこかでそれを望んでいる自分に気づくのである。

今やあらゆる局面で情報収集され、監視される個人。そのリスクを知りつつも、便利なサービスや楽しさ、自己表現といった欲望を満足させるための代償として、自らの情報を手放す私たち。「欲望のコード」という展覧会タイトルは、情報を消費する側の欲望であると同時に、消費される側の欲望をも示しているのではないだろうか。(文/今村玲子)


三上晴子 欲望のコード

会 期:2011年10月22日(土)〜12月18日(日)
会 場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA
開館時間:午前11時〜午後6時(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日
入場料:500円、高校生以下無料
主 催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
協 力:マイクロビジョン、多摩美術大学 情報芸術コース
特別協力:山口情報芸術センター [YCAM]




今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。

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