書評   

創造への繋がり 41 『知識創造の方法論』/評者 深澤直人(デザイナー)

11.07.06

『知識創造の方法論 ナレッジワーカーの作法』
野中郁次郎・紺野 登 著(東洋経済新報社 1,890円)

評者 深澤直人(デザイナー)

「知識というものを知る知識」

 野中郁次郎先生と紺野 登さんに、一橋大学大学院国際戦略研究科での勉強会で話をしてくれないかという依頼を受けた。野中先生は知識経営の世界的研究者で「暗黙知」と「形式知」の研究者であることは知っていた。紺野さんは1990年頃からの知り合いで、ナレッジマネジメントやデザインマネジメントのコンサルタントであり、研究者でもある。おふたりの研究会で話せと言われても、私は日頃のデザインのことやデザインを通じた企業との関わり、デザインの考え方などを伝えることしかできないので、何が役に立てるのかわからないまま出向いていった。
 これは「知」についてふたりが書かれた、知識をどのように創造しビジネスに役立てるかを解いた本だが、読んだ印象は哲学書であり、社会学の書でもあった。読みながらデザイナーである自分の抽象的な知識構造や、形式化しにくい思考を解剖、分析された感じがした。
 最近はデザインを通じて企業の戦略に関わる仕事の依頼が増えてきている。デザインを通じて見えてくる「筋」が経営戦略の根幹に繋がる自覚があって、1つのデザインを成すために複雑な要因を整理、単純化し、リソースを見つけ出し、問題と課題を分別し、わかりやすい言葉に置き換えたりしながら最終的に1つの製品を具体化しなければならないという事情が、そのような依頼を増やしているように思える。もともとデザインというものは思考をビジュアライズすることであり、暗黙知を形式知化する知識創造の仕事であったことが、この書によっても確認できる。
 私はデザインを、相対的に捉えようとしている。例えば、主観と客観とか、脳と身体とか、感情と行為とか、人間と環境とか、固体と空気とかがそれである。私のなかの理解では知識と経験も相対、分離した関係にあったが、ここでは知識を以下のように定義している。
 「私たちにとって『知識』とは、道具やツールであるとともに、自己を発展させ、成長させる力や信念でもあります。哲学とは『知を愛する運動』ですが、知識創造もまた『知を生み出すための』運動として力動的実在的にとらえる視点がとても重要になってくるのです」(本文より)。
 経験は「暗黙知」であり、知識は「形式知」であるととらえていたが双方がともに知識であり、その2つの相互作用が知識創造の核なのである。知識創造を4人の哲学者、プラトン、デカルト、デューイ、西田幾多郎の考察から抜粋して対比し、抽出されたキーワードがわかりやすい。
 「『なぜ人は生きているのか』という哲学的な問いかけは一見、ビジネスには何の関係もないかもしれません。しかし、『なぜ人はわが社の製品を購入するのか』といった問いかけを心の内でしないビジネスマンが成功できるとも思えません。単に利潤の追求や競争原理では語りつくせない哲学的な知が背後に求められていることは確かでしょう」(本文より)。
 確かに最近、ありそうでなかったものがなぜデザインできるのかとか、売れるということがどうしてわかるのかというような質問を受けることが多くなった。答えはこの本の中で説明されている。(AXIS 109号 2004年3・4月より)

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