書評   

創造への繋がり 37 『新 質素革命』/評者 柴田文江(デザイナー)

11.05.16

『新 質素革命』
浜野安宏 著(出窓社 1,470円)

評者 柴田文江(デザイナー)

「ひとりひとりの気づきが地球を救う」

 タイトルもメッセージも強烈だが、本書は特別に極端な節約や、現実離れしたストイックな暮らしを奨めているわけではない。人間が人間らしく、そして地球と共生してゆくためのハイセンスで現代的な質素ライフの提案だ。日常の地平から足を浮かさずに取り組んでこそ、暴走する列車にブレーキをかけられるかもしれない。いくつかキーワードを挙げると、「シンプルシック」「自然に逃げず、都市に埋没せず」「スローな時間に身を置く」「住むから、棲むへ」「自分ひとりからの出発」「広く所有しようなんてクールじゃない」「フィットネス状態を保つ」「パラダイムを主体的に転換する」。決して大げさに考えなくていい、ファッションとして、スタイルとして、自分のあり方を人間らしいものに変えるだけで、イデオロギーにも宗教にもできなかった革命が、ひとりひとりの気づきの連鎖によってなし得るという視点は、現実的で実践できるかもしれないという勇気をくれる。
 『質素革命』が発行された71年当時、私はまだ幼稚園児だった。その頃37億人だった地球人口は、今60億人を超えているそうだ。地球の温暖化は進み、多くの川が海に辿り着くまでに干上がり、オゾン層は薄くなってしまった。あれから30年余り、『質素革命』で行った著者の予言はほとんど的中してしまった。当時の大人たちの手で質素革命が実現していたら、もう少し状況は良かったのでないかと考えると、大人になった今、何もしていない自分の無責任さを痛感する。何もしないどころか、排気ガスをまき散らして出勤し、エアコンの効いた部屋で快適に過ごし、必要以上に食べ、合成洗剤で皿を洗い川を汚す、そしていつかゴミになるであろうモノをデザインする。確実に断崖絶壁は近づいている。「何かしなくては」と漠然と感じていながらも何もしない自分、断崖絶壁へ向かう列車に石炭をくべるかのような自分の仕事、矛盾に苛まれる。
 今の幼稚園児が私の歳になったとき、「あの頃の大人たちは何をしていたのか」と嘆いて欲しくはない。ひとりひとりの意識改革で、大きなうねりを巻き起こしたい。それぞれの生活の中で、仕事の中で……。「地球しかないのだ、われわれは月には住めないのだ」。(AXIS 107号 2003年11・12月より)

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