書評   

創造への繋がり 36 『レイアウトの法則』/評者 深澤直人(デザイナー)

11.05.09

『レイアウトの法則―アートとアフォーダンス』
佐々木正人 著(春秋社 2,415円)

評者 深澤直人(デザイナー)

「見えないものを見るということ」

 われわれは、われわれを取り囲む世界をどのように捉えているのだろうか。どのように見、どのように感じているのだろう。ものの輪郭を線で描くことで、ものという固有の存在を捉えているのだが、本当にそうなのだろうか。著者は、周囲にある具体のことをレイアウトと言う。立体物を見ているのではなく光があらわにする異なる表面のテクスチャー、すなわち肌理の連続が世界を成している、と言っている。これを発見したのがアフォーダンスを提唱したジェームス・ギブソンである。
 著者の佐々木正人氏はアフォーダンスの研究者でもある。これまでに多くのアーティストと対談し、幾度となくアフォーダンスとアートの関係性について語ってきた。氏はアーティストを指して、肌理、レイアウト、そして周囲のアフォーダンスについて研究し続ける存在と言う。そして、彼らは知覚心理学者よりもはるかにレイアウトに詳しいとも言っている。
 アフォーダンスは環境にある意味のことである。アーティストは多様で無限な環境の意味をレイアウトの中に見出すことができる。確かに美術大学に入るためにデッサンを習い、そこで教えられたことは、ものを立体として捉えることだった。異なるサーフェイスの肌理を見て、それを紙に隅から描き写していくことは否定されたような気がする。影と光による世界を描くのではなく、立体としての固まりを見出すことが「ものをよく捉えている」と褒められた。アフォーダンスは、人間が既知のリアリティをあらわにする。アーティストは特別な場所を見ているのではない。むしろ誰もが知る世界の中に意味を見出していることが、この本を読んで理解できる。
 立体的にものを捉えることがデザイナーの特技であるかのように語られてきたが、見える世界は肌理とそのレイアウトの変化によって知覚されているということが、いとも当たり前なこととして衝撃である。例えば壁の前にある椅子を見るとき、椅子の表面が終わり壁の表面に繋がるということをあまり考えない。思考は椅子の見えている部分の表面を辿って、見えない反対側の表面にまでまわり込んでしまう。これが椅子を見るという立体思考であって、椅子というものに固執して見ているということであった。しかし、この本はむしろ見ている世界は舞台の背景のように平たいものの連続だと言っているような気がする。もちろん舞台はある一定方向からしか見ないだろうし、自分の見る位置は固定されている。見えている世界は、動きながら見る平面の連続なのだろうか。
 見えないものを見るということが語られている本である。アート、とくに絵画として、写真として、あるいは建築として。どのように世界を見るかは、どのように描かれているかによってあらわになる。写真家・畠山直哉や建築家・塚本由晴との対談も面白い。(AXIS 107号 2003年11・12月より)

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