第17回「ユストラ社 一夜限りの移動シアター その2」
10.11.11

前回に続いて、ハノーファー市の交通会社ユストラの主催による一夜限りの移動シアターについてレポートします。ユストラの車庫から旧車両に乗って移動後、次はシュタットハレ(市立文化ホール)前でオープンエアのシアターです。オーケストラは遊牧民のようにテントで演奏。オスカー・トゥスケッツがデザインしたトラム停留所が背景になっています。


オーケストラのテントと向かいあって、1950年製のトラム車両の屋根からクルクルと半透明のスクリーンが巻き落ち、街角にステージが登場。悪魔はヴァイオリンを弾けないので兵士を家に招待して3日間の約束で演奏法を教授してもらいます。しかし現実には3年が経過しており、故郷に帰ると兵士は誰にも歓迎されず婚約者は既に別の家庭を持ち、さらには脱走兵の汚名が着せられていました。悪魔からの本を活用し大金持ちになったものの心は満たされないままでした。


スクリーンの後ろを楽屋代わりに悪魔は老女へと変装しなければなりませんが、この変装プロセスが美しい影絵になっていました。

クライマックスとなる3つ目の会場はハノーファーの中心街にあるシュタイントア地下鉄駅の秘密の線路。シュタイントアの地上にはアレッサンドロ・メンディーニのトラム停留所があります。いつも利用する地下鉄ホームの足下深くに整備用に使ったりする行き止まりの隠れホームが存在するとは知りませんでした。交通局の職員が懐中電灯で観客の足元を照らしてくれます。


ある国の王女が誰も治せない病気にかかっていましたが、兵士は悪魔から取り返したヴァイオリンの音で病を退治しふたりは恋に落ちます。恨みを持つ悪魔は、その国を出れば兵士には災いが降り掛かるという呪いをかけます。王女の望みで兵士の故郷の村へ行こうと国境を越えた瞬間、兵士は悪魔の手に落ち、王女だけが国境に残されてしまいます。

私たちが2時間半かかって観劇している間に、車庫はちょっとしたアフターシアターパーティー会場にアレンジされていました。プロジェクトは半年前にスタートしましたが、ユストラ社としても音楽シアターをプロデュースするのは初の試み。構想から実施に移すまで本当に冒険だったそうです。市電とストラヴィンスキー? そんなのカラーが合わない、マーケティングにもならないと社内でも批判の声が上がり、皆が企画に賛同したわけではありませんでした。でもそんな懸念は全くの無用。9月に行われた4回の公演はすべてソールドアウト。その後の問い合わせも多く、再演の可能性を探っているそうです。電車やバス、停留所や車庫が街の中のユニークな劇場空間としてもっと再発見されてもよさそうです。(文・写真/小町英恵)
この連載コラム「クリエイティブ・ドイチュラント」では、ハノーファー在住の文化ジャーナリスト&フォトグラファー、小町英恵さんに分野を限らずデザイン、建築、工芸、アートなど、さまざまな話題を提供いただきます。
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